『子供の科学2025年2月号』の「ヘルドクターくられ先生のあやしい科学を疑え!」は読んでくれたかな? 本誌では収まりきらなかった、くられ先生の頭の中の徒然考えているお話を、コカネット限定で配信中! 本誌の連載とあわせて楽しんでね。
イラスト/obak(@oobakk)
信用の積み立て貯金
本誌では、科学というのが信用の上に成り立っているので、多くの人が安心して使えるんだね……という話をしましたが、こちらでは、もう少し個人的な「信用」というものを考えてみましょう。
実際に「これは店の信用を落とす」とか「あの人は信用できる」みたいに、信用という言葉を使っていると思います。国語事典で「信用」という意味を見ると、「確かなものと信じて受け入れること」、「信じて疑わないこと」と書かれています。要するに、信用のあるものは、後先考えず受け入れるものですね。
水道水は安全かどうか? 携帯の電波は安全かどうか? ワクチンは安全なのか? そんなこと普通は考えません。それは、数多の専門家が己の専門生命をかけて、研究し、会社も安全性試験を重ねて、安全で公益性のあるバランスをしっかり考えて、それを国や地方自治体が支え、ちゃんとしているからこそ、普通に気にせず安全に使えているわけです。だから、それらがウソだといきなり言い出すトンデモない話を「陰謀論」と言うわけです。
陰謀論は積み重ねた「信用」をひっくり返す証拠を持っていませんから、口八丁手八丁で、みんなを騙そうとウソを積み重ねるわけです。
しかしウソも積み重なると、素人には真実と見比べるのは難しい……のですが、基本に立ち返って「じゃあ本当にXXが有害」だったらって考えれば、それがだいたいウソであるかどうかは見えてくるわけです。なのでどんな物事も「これ大丈夫かな?」と考えることが大事だというのは、この連載で何度も話をしてきたわけです。
さて「信用」というものはもちろん最初からあるわけではなく、長年、多くの人の努力によって積み重ねられたもので、そこで一部の人がその信用を悪用して、自分のために利益を誘導したり、盗んだり、悪いことをすると、その信用というのは、瓦解します。
失われた信用はを取り戻すためには、また長い長い年月が必要になり、それは、ちょっとした個人が一時的に得をする引き換えに社会としては結局、すごい損失が生まれてしまいます。だからこそ、信用を傷つける人には大きな罰が用意されていることが多いわけです。
それだけに、国や会社といった組織は、損得勘定のレベルでも「信用を大事」にするわけです。
さて、これと個人の信用を考えてみましょう。
信用出来る人 信用されない人
みなさんも身の回りに、信用出来る人、信用出来ない人がいると思います。また人によっては信用する会社やサービス、一方信用出来ないものを見極めている人もいるかもしれません。
この線引きってどうやってますか?
この個人の信用というのも、結局は積み重ねです。
例えば2人の友人が貴方にいるとします。Aさんはいつも愛想はいいけど、肝心な時には助けてくれないし、すぐにウソを付く。そしてBさんは普段は適度な距離で付き合ってくれているけど、困ったときにちゃんと相談にのってくれる。この2人、どちらが信用出来る人でしょうか?
この二人が、貴方の大事なもちものをちょっと貸して……と言ってきたら、どちらなら大丈夫って思うでしょうか?
信用は積み立てるのは難しく、崩すのは簡単です。
仮に、Aさん、Bさんに貸して、Aさんが返してくれなければ「まぁそうだろう」と思うでしょう、それはもともと信用がないからですね。逆にBさんが返してくれなければ、かなり信用は減ってしまうでしょう。
もちろん、こんな簡単な尺度で人の信用が計れれば楽なのですが、実際の詐欺師なんかは、この信用の構築の仕方をよく知っていますから、逆に信用されるような動きを徹底してして、信用をあつめたところで、大きなお金を持ってドロンします。
ゆえに、個人の話になってくると、会社や社会よりはるかに「見極め」は難しくなっているわけです。
とはいえ、貴方の人生に急に現れた謎の人より、身近な信用出来る人をまずは大事にしていれば、そういった人たちが騙される前に助けてくれることがあります。
そういう意味で、自分自身の信用も積み立てていくことが大事であって。約束を守ったり、あしがとうとちゃんと伝えたり、報告、連絡、相談をしっかりする、気持ちをちゃんと冷静に伝える、人の話をしっかり聞く……などなど、自分が「誠実」に生きていくと、信用は積み重なっていきます。
悪の組織には信用がない
以前、悪の組織はどうして正義の組織より弱いのか……という話をしましたが、悪の組織は人の信用を裏切ることを前提にした人の集まりだからです。当然大きなお金や権力が特定の人に傾いたときに、その人は裏切るというのが前提にした組織運営になります。
組織が大きくなればなるほど、個人の利益のために裏切るリスクが増える。だからこそ、裏切ったら酷い目に遭わすという「恐怖」でしか人を縛れない……そして悲しいことに「恐怖」で縛られた人の生産性や仕事の能率というものは低いのです。
悪の組織は、例えば麻薬の元締めのマフィアなども、確かに良い暮らしはしていても、電話会社や製薬会社、パソコンの会社に比べると明らかにお金を持っていません。
実際の数字を見てみましょう。
国連の推定によると、世界の違法薬物市場の年間規模は約3000億ドル(諸説あり)です。
一方で、2023年のグローバル通信市場の規模は約1.5兆ドル、スーパーマーケット業界は世界で約6兆ドル、物流市場は10兆ドル、とされています。
つまり、違法な取引で命を危険にさらしてお金を集めてもその上限はこの程度、信用を重ねたビジネスのほうが安全で儲かるわけです。こうした数字を見るだけでも「信用」は大事であるかわかるわけです。
麻薬の王は、そのボスの座を狙って、ライバルや部下までもが常に裏切りそうな人材で構成されています。
「信用がない」世界で社会構築をするというのは、ハードモードなのです。故に、多くの人が一攫千金の犯罪ではなく、まともで普通の仕事でお金を得ることの方を選ぶわけです。だって刑務所には入りたくないじゃないですか(笑)
積み重ねの信用
約束を守ったり、ちゃんと借りたものを返したり、そうした積み重ねが信用です。当然勉強の積み重ねもまたその人の信用になります。
それが1つの学歴という信用であり、学歴なんて信用できない……と最近は言われがちですが、何も勉強をしてこなくて、九九も怪しい人と、学校で一番の成績を取り続けて医師になった人。どちらも同じように「いい人」にみえるけど、貴方が銀行員でこの2人がお金を借りに来たら、どちらに貸してもよいと思うでしょうか?
もちろん学歴だけでは判断材料にはならない、医師にも変な人、悪い人はいる……という話はしてきましたが、やはり圧倒的に少数です。少数故に目立ってしまうのですが、いの一番に人生で勉強を積み重ねて、人を救うために研鑽してきた人が、信用を捨て、騙す側に廻るというのは、相当本業でやらかしたあとでないと成立しないわけです。
そう考えると、やはり全体をみれば、その人が異常であるのはすぐ分かりますし、その人の積み重ねというのものをよくよく見ていくと、何をしてきた、何を作ってきた……というのをみて、その人の信用となるわけです。
そういうわけで、この世界では「信用がない」というのは社会でみると「金銭的価値が低い」とも言い換えられてしまうのです。
もちろん学校の勉強以外にも学ぶべきことはいっぱいあります。それが技術職のウデマエであったり、どれだけのことが出来るかという、その人の腕という積み重ねなわけです。
さてさて、この信用を見る目で……、この文章の著者を見てみましょう。
うーん、怪しいですね。
なのでこの話もまた、参考程度にしましょう。
「信頼」もいきすれば盲信となります。盲信は事故の元です。適度に怪しんで、世の中をうまく生きていきましょう。
文