【ヘルドクターくられ先生のあやしい科学を疑え! vol.15】実はカッコ悪い「論破」 つづき【子供の科学11月号】

 『子供の科学2024年11月号』の「ヘルドクターくられ先生のあやしい科学を疑え!」は読んでくれたかな? 本誌では収まりきらなかった、くられ先生の頭の中の徒然考えているお話を、コカネット限定で配信中! 本誌の連載とあわせて楽しんでね。

イラスト/obak(@oobakk

上から目線で責め立て、不利になったら論点すり替え 論破の方法

 さて、本誌では論破というものがいかに無意味なものであるかの説明をしました。そして論破というのは簡単だよ……という話もしたのですが、「いやいや難しいよ」と思う人も多いかと思います。

 議論と論破を比べてわかったと思うのですが、議論は同じレベル(学力や理解の深さ)の人間が、お互いの意見の問題点を見つけて、建設的な話をすることです。同じくらいの学力なり理解なり、基礎知識なりの人間が会話を積み重ねることで、それぞれ未熟な部分や、見落としのある部分を確認するのが目的なわけです。これがレベル差がありすぎると議論が成り立たないのは、わかるでしょうか?

 例えば、九九も教わってない子供と、数学科の院生が共同で数学の論文を書くことは不可能……という感じです。料理のプロのアシスタントとして卵焼きもつくれない人がなんの役に立つでしょうか?

 建設的であるというのは、お互いが同じレベルで力を出し合う必要があるということで、ランクの偏りが激しいとそもそも議論を行うことは難しいのです。

 当たり前じゃん! って思った人もいるかもしれませんが、これが少しみんなが知らない話題になると、とたんに議論が成立しなくなるのに、成立するように思えてしまうことがあります。

 例えば、食品添加物有害論と無害論、この2つの間には議論が成り立つのでしょうか?

 この辺が「議論」の難しさで、そのジャンルを勉強したことのない人からすれば、議論として成立しそうに見えるのですが、これは実は成立しません。

 現在の食品添加物の安全性というのは、世界中の研究者が何千何万と安全性の試験をして、その厳しいテストの末、食品に添加する量まで決められて使われているもので、その安全性を調べるために、毒性試験を行っています。例えば、「マウスにXXmgを毎日食べさせたらXX日で有害事象が」……という感じです。

 そのデータを元に、ではこの添加物を使えば食品の腐敗などを抑えることができるメリットがあって、有害な毒性が出る分量まではどれだけの差があって、安全に使うにはどれだけの分量にするべきなのか……というのを徹底的に調べた故に「安全だから使っていい」と認められているわけです。

 一方、多くの危険論を展開する人は、毒性試験のデータを見たら「マウスにXXmgを毎日食べさせたらXX日で有害事象が出た」と書かれている、つまりこの物質は毒である! だから摂取してはいけない! これは企業利益のためのデマだ! と騒ぐわけです。

 ここまで説明すると、この両者の間には「理解」のレベルが果てしなく異なることがわかります。一方は科学的に積み上げられた事実からの安全性の話、一方は感情的な理解による危険性の話。添加物危険論の人のいうことが科学的に正しいなら、塩だって数十gで致死量な猛毒だし、水だって数ℓ飲むと死んでしまう猛毒です。そんなわけはないはずなんだけど、なんとかリン酸ナトリウムとか、聞いたことがない科学物質でその話をされると、ついつい知識のある人だって騙されてしまうのです。

 この辺は拙著「アリエナイ毒性学事典」でも詳しく解説しているので、気になる人は見てみてください(笑)

 危険論を展開するのであれば、安全であるという根拠から覆す必要があります。つまり科学的に安全性を確認した物質の有害性をひっくり返すだけの膨大な研究をして、その積み重ねを研究成果として持ってくれば、始めて「議論の場」に立つ権利を得るわけです。

 だから議論は同レベルでしかできないし、してはいけないのです。

論破モンスター

 さて、ここまでに大体の論破のしくみはすでにしてきました。そうです、「話が食い違っていれば」論破は成立するわけです。

 相手と知識のレベル感が勝っていれば、相手が知らないだろう言葉をガンガン投げて、相手が知らないといえば、知らないのにこの場に出てくるとは馬鹿者めと相手を否定する。
 
 逆に相手が専門家であっても簡単です。

 統計や数式を根拠に科学的に論じる人がいても「数式には意味はありません」と返せば、会話が成立するでしょうか? 話が通じないすぎて反論不能なので、相手は黙るしかありません。さらには「そのデータは信用できません」で、他の誰もが認めても自分は認めないという立場を速やかに展開さえできれば、相手が論理的に話を組み立ててても、その隙をついてなんか会話の上では相手を黙らせるということは可能です。

 ようするに論破の本質は水掛け論で、上から水をかけてるだけで、相手を永久に不快にして、自分が濡れてないように見せかけ「コイツはずぶ濡れじゃないですか、こんな人を信用できますか?」と周りを仲間に引き込むような仕草をすればもう、完全にパワハラ論破会議のできあがりです。

 会話で相手の発言をストップさせてしまうってのは、言い伏せているように見えて「コイツにはこれ以上なにをいっても無駄やんけ」と呆れられているだけなんですが、それでも最後に喋ってた人は「言い伏せた」、「論破した」とみえるので、強そうにみえる。

論破なんか、相手の話の問題点を見つけてただただ詰めていって相手が用意していない回答に達するまで詰めるだけで大体できるし、論点のすり替えなんか、「ところで守護霊がいってるんですが」で切り返す自称霊能者となんら変わらない。

 論破や論点すりかえは、まず同じ土俵に立たない、一段高いところに陣取って、上から水をかけて、自分が有利になるようにたち振る舞うだけ。

 これでさらには自分は正しいと見せかける口先だけは立派なのが多いので、社会的に成功している人も多く、この議論と論破の違いを理解できないと、口先だけのモンスターに負けてしまうまであるわけです。

 みなさんも論破モンスターを見かけたらご注意を。

子供の科学2024年11月号

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自称、不良科学者。サイエンス作家、科学監修、大学講師と多岐にわたって活躍。YouTubeチャンネル「科学はすべてを解決する!」での配信や、『アリエナイ理科ノ大事典』シリーズ(三才ブックス)、『アリエナクナイ科学ノ教科書 ~空想設定を読み解く31講~』(ソシム)などの著書も多数。

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