【ヘルドクターくられ先生のあやしい科学を疑え! vol.12】小さな嘘と大きな収益 つづき【子供の科学7月号】

 『子供の科学2024年8月号』の「ヘルドクターくられ先生のあやしい科学を疑え!」は読んでくれたかな? 本誌では収まりきらなかった、くられ先生の頭の中の徒然考えているお話を、コカネット限定で配信中! 本誌の連載とあわせて楽しんでね。

イラスト/obak(@oobakk

「オカネ欲しい〜 大金ゲット〜♪」
みたいな嘘くさい広告は誰のためにあるの?


「この寝具を買えば腰痛から解放される!」
「このサプリを買えばいくら食べても太らない」
「このアカウントをフォローしてくれれば課金カードゲットのチャンス!」

 多くの人はこうした話を「ノイズ」として気にもしていないと思います。あんなものに騙される人なんかいるわけ……って思う人もいるかもしれません。

 でもそんな人もなんとなくTwitterを眺めていたら「〜って成分の入浴剤買ってみたら、マジで1週間で5kg痩せたわ すっげ!」みたいなツイートを見かけて、あ、500円くらいなんだ、ちょっと試してみるか……って思うかもしれません。そして試してみて特に効果もなければ「まぁそんなもんだよな」、「どうせ500円だし」って思うことでしょう。

 しかし世の中悪いやつはいるもので、その入浴剤のツイートをした人は、実は入浴剤の宣伝部隊のアカウントの1つで、それがたまたまバズったものを見かけただけかもしれません。その入浴剤はただの塩をパッケージしただけのものかもしれません。

 つまり原価数円のものを500円で買っているかもしれません……そしてその商品が1万個売れていたとすれば……?

 そう、1万人が「あー自分は効かなかったわ、残念」と思うだけで500万円もの大金をノーリスクで手に入れることができるわけです。

 スーパーで売ってる塩を小分けにして500円で売っても誰も買いませんが、そういったストーリーや付加価値(に見せかけた)ものを足すことで、1つのビジネスが成立するのが世の中の恐ろしいところです。

 LINEでいきなりアイドルから間違ってメッセージがくることなんてありえないと思っていても、テレビやネットで有名なあの人がやっている株式投資プランなら信用できそうだから入ってみようかなって人はいるかもしれません。

 このシリーズで「世界は欺瞞だらけ」という話をしてきましたが、「欺瞞だらけ」なのには理由があるわけです。そうなのです、乱暴にいえば数打ちゃ当たる、騙す人も可能な限りリスクを低く、お金をだまし取りたい! という簡単な理由です。

 例えば「オカネ欲しい〜 大金ゲット〜♪」みたいな超怪しいCMに乗せられて、申し込みをするような人はそうそういません。明らかに怪しいですからね。

 でもこの「明らかに怪しい」という判断ができない人を探すための手法だと考えると、相当恐ろしい話に見えてきませんか?
 
 超怪しい申し込みに平然と住所氏名を送るような人……オレオレ詐欺などの受け子などに代表される「闇バイト」なる犯罪を行うときの責任の押しつけ、尻尾切り役に打ってつけって思いませんか?

 言うことすべて信じてしまう上に、欲深く、法的なリスクの判断ができない人材を探すには、死ぬほど怪しいCMで「常識ある人」をふるい落とせばいいのです。

釣り針は誰の目の前にも落とされる!

 「今だけ! 30分のチャンスです!」って毎日テレホンショッピング番組がテレビで商売ができるのも、そこに電話する人が後を絶たないからなのです。

 例えば、その日たまたま腰が痛くて寝具について考えていた人が、たまたまテレビでそれをみた……、孫が家に来るからカニ鍋セットのテレホンショッピングを見て電話をかけた……。そういう人がいるからこそ、テレビ放送というとんでもない高額なお金をかけてまで、商売が成立してしまうわけです。

 もちろんテレビショッピングがすべてインチキな商品を売っているというわけではありませんが、カニ鍋なら変な代理店からより、産地直送のお店の方が安くて量も多いですし、本当に体にあった寝具なら、専門店で自分の体で試してみるべきなのです。

 「わたしアイドルのXXだけどお金貸して」って明らかな嘘メッセージ、数人に送ってもブロックされるだけです。しかし数万人に送ると、2、3人は「え? マジで? お金貸す貸す! デートして!」ってなるわけです。そう、このとびっきり間抜けな2、3人を釣り上げるために、釣り針はでかくて明らかに嘘に見えているだけなのです。

 その釣り針が見えているかどうか……それがあなたのリテラシー審美眼なのです。
 
 しかし、どんなに勉強していてもいつかはひっかかります。

 例えば、こんな偉そうに話をしている筆者も、フィッシング詐欺にひっかかったことがあります。たまたま友人のSNSが乗っ取られて、そこから送られてきたフィッシングサイトにうっかりログインしてしまった経験があります。

 自分にとってその人は、ちょくちょくお得なお買い物情報を送ってくれる人だったので、いつもと同じだと思って「あれ? ログアウトしてたっけ」とログインしなおしただけです。その一瞬の判断ミス。後から考えれば10秒考えればわかったことです。

 つまり、タイミングや状況が揃ってしまうと、コロッとやられてしまいます。

 そんな感じで、どんな人にもたまたま「正常な判断ができない」状態のときがあります。そんなときに「大きな釣り針」はあなたの前にやってくるわけです。

 それが世界にインチキ情報や詐欺が山のようにある理由なのです……。

子供の科学2024年8月号

創刊100周年記念特大号! 26年後のミライが見える雑誌『子供の科学』2050年8月号が付録でついてくる! 特集では「ミライの自由研究」をコンセプトに、科学系YouTuber市岡元気先生と現代美術家AKI INOMATA先生が新時代の実験や工作を提案。他にも、講談社の図鑑MOVEとのコラボ企画や100円ショップで買えるものでご飯を炊くサバイバル術、FMラジオづくりなど、自由研究のアイデアが満載!

8月号の詳細はこちら

くられ先生 著者の記事一覧

自称、不良科学者。サイエンス作家、科学監修、大学講師と多岐にわたって活躍。YouTubeチャンネル「科学はすべてを解決する!」での配信や、『アリエナイ理科ノ大事典』シリーズ(三才ブックス)、『アリエナクナイ科学ノ教科書 ~空想設定を読み解く31講~』(ソシム)などの著書も多数。

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子供の科学 2024年 12月号

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