『子供の科学2023年9月号』から連載がスタートした「ヘルドクターくられ先生のあやしい科学を疑え!」。本誌では収まりきらなかった、くられ先生の頭の中の徒然考えているお話を、コカネット限定で配信中! 本誌の連載とあわせて楽しんでね。
イラスト/obak(@oobakk)
SNSで流行のあやしい情報「ウソ? ホント?」どうして見極められないの?
あやしいインチキ情報の方が信じられてしまう理由
はてさて、本誌では、あやしい情報がSNSに流れてきた。それは、ちょっと魅力的に思える話だし、買っても数百円、ダメでもともと……でもやっぱり効果はなくて、悪徳業者は肥え太るウマい話をあやしむにはどうすればいいのか? 「科学的な考え方」という話をしました。
ネットがここまで一般的になる前、あやしいインチキサプリや、あやしいダイエット商材、空間除菌なんかは、本当に、一部の人が騙され、財産をかすめ取られる目立たない存在でした。
しかし、ネットという媒体では、インチキ情報が正しい情報に勝ってしまうことがままあります。
それは、ウソをつくのと、事実を告げるでは、ウソのほうがエンタメ性が高いからです。言い換えれば人の目に止まるからです。
例えば、食品添加物のXXという成分が、みんなが知ってるすごい機関で発がん性の可能性ありのリストに掲載された……というニュースが駆け巡ったとします。
動画サイトには「XXにはやはり発がん性がある! 買ってはいけないXXが含まれる商品ワースト10」みたいな動画が次々とアップされ、ネットニュースでは、発がん性を煽った「XXの危険性は以前から指摘されていた」みたいな話が掲載され、TwitterなどのSNSでも、こぞって「XXの危険性がようやく認められた」、「こうした毒素から身を守るには〜」みたいな怪しい情報が乱舞します。
そう見ると、本当に世界のルールが変わってしまったように思えるかも知れません。
そして、XXという成分をいまだに使っている日本の企業はなんて遅れているんだ……って謎の怒りを覚えてしまう人もいるかもしれません。
そんな情報の混沌の中「そもそもその機関の発がんリスクのリストを見ると、シフト勤務や喫煙、日サロで日焼けするよりXXの危険性は同レベルか、それ以下……徹夜のほうが発がん性高いよ……」といったところで、大騒ぎしてる人の元にはそうした情報は届きにくく、先のセンセーショナルな話題のほうが勝ってしまいがちです。
人は「〜が危ない」という情報のほうが目に入るのです。それは本能的に危険を避けたいという気持ちがあるから、そこにインチキ情報は滑り込んでくるわけです。
そうして、インチキ情報の刷り込みに成功すると、そのアカウントはフォロワーが増えて、より影響力を広めていくわけです。そして、ことあるごとにあやしい商品やセミナー情報を配信して、ガッツリ騙せて金を引き出せるカモを待ち構えているわけです。
いやいや、Twitterのツイート程度でそんな大げさな……って思うかも知れませんが、世の中のインチキビジネスの多くは、そうした法律のスレスレのラインで稼ぐ小悪党が大半。それ故に目立たず、被害もわかりにくいわけです。これを自己責任と突き放してしまうのは、家の鍵を閉め忘れたから、泥棒に入られたんだ……盗まれた方にも非がある……みたいな理論です。泥棒が100%悪いやろがい。
1つのインチキ情報がネットに放たれると、それを明確に否定するには本当に多くの知識や時間を必要とします。騙す側だって、やすやすと突破されないように、ウソ論文や、フェイクニュースサイトなどをソースにして、あくまで責任は自分ではないように見せかけたり、巧みな専門用語を駆使したりして、理解を困難にしてきます。そうした詭弁を打ち破り、参照している論文の出元がハゲタカジャーナルであることを調べ、フェイクニュースサイトの運営者がアメリカ本家の反科学カルト……などの情報を調べていくのは本当に大変です。
ホンモノの科学者や医師、優秀な人材が、デマカセ1つを論破するにはそれなりの時間を捻出させられるわけです。故に、インチキビジネスの連中は次々と荒唐無稽なウソをネットにばらまいて人の不安につけ込もうとするわけです。
だったら有害論と無害論、討論会しようぜ!
これ……正しい方法だと思う人はだいぶヤバいということを自覚しましょう。
論破したら論破したほうが正しいのでしょうか?
論破など、ただのディベートの勝ち負けでしかなく、そもそも「議論」というのは同じ土俵に立っている人としかできないし、してはいけないと決まっているからです。そんなの勝てない人の言い分けじゃんって思ってしまう人、チャレンジャー海淵より深く反省してください。
例えば、宇宙に生命はいるかもしれない……と宇宙生命の可能性を探究している研究者と、私が火星人ですウケケッケッケという人の議論は成り立つでしょうか?
心霊現象を物理的に調べ、現象として調べている最中に、「だって霊はいるもん。ほらそこに」って言い張る霊能者が来て、何か進展はあるでしょうか?
ないのです。不毛なのです。
例えば、食品添加物はちゃんと安全性試験していますし、万一を考えて安全量もとってあるので安全ですよ……という意見と、食品添加物のXXは動物実験では腫瘍が出たデータもある危険物質!! と言い張る2つの世界の間には、途方もない知性の壁があります。
一見、両者はどちらも食品添加物の専門家で、一方は安全性……もう一方は危険性を主張している……ように見えますね。
でも、危険論者が出しているデータは、そもそも安全性試験のデータで、それを誤解させるように使っている確信犯か、それとも本気で誤解しているマジ愚か者かの2択でしかないわけです。
その2者を交えて、「本当の結論」が出る……わけないですよね?
危険性を訴えるのであれば、その危険論者は本来、安全性を出している機関や研究者に、堂々と実験データをとって、論文を書き、それがあちこちの研究室で確かめられ、その危険性を認めさせることが「本来の議論」です。対面で口先バトルすることが議論ではないからです。そんな口先バトル、耳触りがよくて調べることをいくらでも困難にできるインチキ側が強いに決まっています。ましてや正しい情報はきっちりとした根拠を示さないといけないので、見かけ上は負けさえしてしまうわけです。一見論破されてしまうことだってあります。それはもう相撲の土俵にピストル持ち込むようなものです。勝っているけど勝ってないし、そこになんの意味も結論もないのです。
そもそも大前提として、安全といわれているものに対し危険論を説くというのは、本来ものすごく大変なことです。本当にそれが事実だということを大変な思いで立証し、薬害や公害などを突き止めてきたという歴史もあります。
そういった人に悪い人たちは擬態しているのですが、彼らは一番めんどうくさくて地味で目立たない「科学らしい」ホンモノの土俵では戦おうとしないという点が、ニセモノなわけです。
しかし、それを何も知らない人や、ジャンル違いの話においてすべて見抜いて対応できる人はいません。
それ故に、科学的にアリエナイ……という知識だけで相手のおかしさを見抜こうとせず、その話が本当なのか? 本当だとしたら? と多面的に情報を判断し、ウソを見抜いていかねばいけないのです。
悲しいことにこの世界には、人を騙してお金を奪い取ることしか考えていない悪い人、人がどうなろうが気にせず自分の承認欲求を満たしたいという迷惑な人などなど、人の幸せを奪って幸せになろうとする人が一定数います。
すぐに暴力を振るう人、万引き自慢をする人や、ネットに悪口を書いたりしてゲラゲラ笑っている人とか、身の回りにそういった人に近しい人を見たことがある人もいるでしょう。彼らに関わると、お金はもちろん、自分の信用や時間などあらゆるものを無駄にします。可能な限りそういった人達に関わらないように生きていきたいと思うでしょう。
なので、そうした「ヤバい人」と関わらないようにする、避けるように生きていくのに「科学の知識」と「科学的な考え方」というのが役に立つことがあります。
てなわけで、科学の知識も大事ですが、その科学における考え方もまた大事なんです……というお話でした。騙されてしまう人が1人でも減りますように!
文