将来、大学で古生物学を学びたい、恐竜の研究者になりたいと思っている人は多いでしょう。筑波大学の田中康平先生は、世界各地で化石の発掘調査をしたり、恐竜の卵や繁殖行動などの研究を行っています。小さいころから「恐竜博士」になるのが夢だったという田中先生に、実際のお仕事はどんなことをするのか、ワクワクするようなお話を伺いました!
恐竜の研究ってどんなことをするの?
―─現在、どのような研究に携わっているのか教えてください。
研究テーマは大きく2つあります。1つは恐竜の卵化石や繁殖行動に関する研究です。卵化石を調べると繁殖についてもわかるので、恐竜の進化や生態を考える上でとても重要なことが明らかになります。例えば、卵の化石をくわしく調べることで、孵化するまでの日数がわかります。また、ティラノサウルスのようにまだ卵が見つかっていない恐竜では、どのくらいの大きさの卵を生んでいたかを骨格化石を使って調べることができます。骨格化石に比べて卵化石の研究は少ないのですが、じつは卵には重要な情報がたくさん含まれていて、恐竜がどのように進化したかを解明するカギになるのです。
もう1つのテーマとして、肉食恐竜の進化の研究もしています。最近ではモンゴルやウズベキスタンに出かけて、骨格化石を探したり、まだ化石が見つかっていない場所を調査したりして、肉食恐竜がどんなふうに進化したかを調べています。他にもこれまでカナダや中国にも調査に行きました。
―─今の研究は、どんなときにやりがいを感じますか?
やっぱり新しい発見をしたときですね。新種の恐竜を見つけたときもそうですが、まだ解明されていない恐竜の謎を解く道筋、こうすればわかるんじゃないかという考えがひらめいたときはすごく楽しい! そしてその考えがうまくいって、まだ世界で誰も知らないような新事実を発見したら、ものすごくやりがいを感じると思います。
恐竜の研究は、よく探偵の仕事にたとえられます。化石は不完全なので、証拠はすごく限られている。それを1個1個集めていって、当時の様子を再現するわけですから、まるで推理小説の探偵になったようなスリリングで楽しい仕事ですよ。
―─これまでの研究成果で、特に印象に残っているものは?
恐竜は鳥のように抱卵したかどうか? 卵の殻を使えば、それを調べられることがわかってきました。そこで博物館に行っていろいろな動物の卵の殻を調べていくと、恐竜の卵殻にある穴の数や大きさが、抱卵するかしないかの指標になることがわかったのです。抱卵する種は卵を地上に産み落とすので、乾燥しないように卵殻は穴が少なくて緻密になります。それとは逆に、抱卵しない種は卵を地中に埋めるので、中の赤ちゃんがしっかり呼吸できるよう卵殻は多孔質になることが明らかになりました。
―─そもそも恐竜って必ず卵を生むんですか!?
お腹の中に赤ちゃんがいる恐竜化石はまだ見つかっていないので、今のところはそう考えられています。でも、爬虫類には卵ではなく赤ちゃんを生む種もいるので、卵を産まない恐竜がいる可能性もゼロではありません。その証拠が見つかれば大発見! 今の化石標本から答えを導き出せたらもっとおもしろいですね。
固定観念によって真実を見落とすこともあります。例えば、これまで軟らかい卵を生む恐竜はいないとされていましたが、ほんの数年前にそれがいることが明らかになったんです。日本では最近、世界最小の卵化石が見つかって話題になりました。定説をくつがえす大発見は、まだまだ思わぬところに埋まっていると思います。
―─研究に取り組むにあたって大事にしていることは?
重箱の隅をつつくような研究はしないで、できるだけ新しいテーマに挑戦することを心がけています。もちろん過去の研究を検証するのも大事ですが、私はまだ何もわかっていない新しいテーマやその研究方法、アプローチを考えるほうが楽しいですね。1つの研究をすると、そこからどんどん新しい謎が出てきて終わりはありません。
―─ちなみに、先生がいちばん好きな恐竜は何ですか?
好きな恐竜はたくさんいますが、お気に入りはオビラプトルかな。オビラプトルとは「卵泥棒」という意味です。卵と一緒に見つかったので、最初は他の恐竜の卵を盗むと思われていましたが、じつは真逆で、自分の卵を温めていたことがわかったんです。あと、大きなトサカをもつパラサウロロフスは、体が大きくてやさしそうなところが好きです。
子供のころから絵を描くことと天体観測に夢中
―─中高生のころから恐竜や生き物が好きでしたか?
はい、小さいころから恐竜も生き物も大好きでした。あと星も好きで、高校の部活は天文部。よく天体観測をしたり、星の写真を撮ったりしていました。『月刊天文ガイド』を購読して、「読者の天体写真コンテスト」に応募したこともあります。でも天文学者は物理数学が必要だし、ずっとコンピューターに向き合う仕事より、野外に出て化石を調べたり博物館に行ったりするほうが向いていると思って恐竜を選びました。
―─得意な科目、苦手な科目は何でしたか?
いちばん得意だったのは図工とか美術、逆に体育は大の苦手でした。それでも山登りなんかは好きでしたが、野球やサッカーといった球技はまったくダメ(笑)。学科では数学・理科は好きでしたが、国語・社会はあまり好きではありませんでした。
―─学生時代に経験したことで、いま役に立っていることは?
もともと絵を描くのは好きでしたし習ってもいたので、論文に添える図やイラストを描いたりするのに役立っていますね。逆に苦手な社会や国語はもう少ししっかり勉強しておけばよかったかな。得意不得意にかかわらず、どんな科目でもしっかり取り組んだほうがいいと思います。体育は苦手でしたが、フィールドワークは体力勝負なので、体は鍛えておいたほうがいいですね。
大切なのは「恐竜が好き」という熱意を持ち続けること
―─恐竜の研究者になろうと思ったきっかけを教えてください。
小学1、2年生のとき、親に買ってもらった恐竜の絵本を読んで好きになり、「恐竜博士
」になりたいと思いました。本当に小さいころからの夢だったんです。それで好きな恐竜の絵を描いたり、工作で恐竜をつくったりしていましたが、絵本には恐竜はもう絶滅していて砂漠に発掘に行くとか書いてある。自分もいつかそういうことがやってみたいと強く思うようになりました。
ただ、子供のころは恐竜研究=発掘だと思っていたのですが、実際にはいつも発掘しているわけではないことがわかりました。9割方は論文を読んだり調べものをしたり、パソコンに向かって仕事をしています(笑)
―─研究者になるまでに努力したこと、苦労したことはありますか?
私が大学に進学するころは、国内に恐竜の研究者はほとんどいなくて、専門的に研究ができる大学も少なかったんです。そこで古生物学を学べる北海道大学(理学部地球惑星科学科)に進学したのですが、ちょうど恐竜研究で著名な小林快次
先生が着任されて、運良く先生のもとで研究ができることになりました。その後、先生のつながりもあって、恐竜研究の本場、カナダ・アルバータ州のカルガリー大学に留学しました。
恐竜研究はとても地道で時間がかかるので、思うように結果が出ないこともあります。ずっと足踏み状態のときは、正直「大変だな……」と感じることもありました。日本の大学院では理系の博士号取得まで5年間ですが、海外の大学は期限がないので、いつになったら自分の研究テーマで成果が出せるのかという不安もありました。
それでも、8年半の留学生活はすごく楽しくて充実したものでした。カナダは本当に自然が素晴らしいんです。大学の周りに野生動物がいっぱいいて、オーロラもまれに見えます。冬はちょっと寒すぎるけど、食べ物はおいしいし、人もやさしくて最高ですよ!
―─恐竜の研究者になるために、これは絶対必要というものはありますか?
絶対にこれは必要、というのはないですね。恐竜の研究者にもいろんなタイプがいて、世界でバリバリ活動する人もいれば、地元でコツコツ研究する人もいます。ただ、みなさんに共通しているのは、「恐竜が好き」という熱意を持ち続けていること。子供のころから好きだったことを、大人になってもずーっと続けている人たちばかりです。
研究者になることを目標にするよりも、恐竜が好き、調べることが楽しいという思いを持ち続けて、その延長で研究者になれたらラッキー! そこまでの道のりを楽しむのがいちばんいいかなと思います。
それに研究と学校の勉強は全然違うので、勉強が苦手だとしても研究者に向いていないということではないんです。
恐竜研究を通して地球全体の謎解きをする!
―─これからの夢や目標を教えてください。
すごく変わった恐竜化石を見つけたり、恐竜たちのいろいろな謎を明らかにしたり、みんなが驚くような大きな発見をどんどんしていきたいですね。恐竜研究はパズルみたいに、小さなピースをちょっとずつ集めて穴を埋めていくイメージです。そうすることで、恐竜たちがどんな繁殖をして、どう進化していったか、恐竜の繁殖戦略の全体像が描けるようになってくると思います。「恐竜の繁殖行動はこうだ!」といえるように、今はその証拠を1つひとつ集めているところです。
―─将来、古生物学者になりたい中高生は多いと思うので、アドバイスやメッセージをお願いします!
古生物学は、昔の生き物を通して地球の歴史や生き物の進化を探る学問です。恐竜はそのピースの1つにすぎません。なぜこれほど大きなグループの生き物が大繁栄して、突然絶滅したのか? 私たちは恐竜を通して地球全体の謎解きをしているのです。
恐竜の研究者は世界中にたくさんいます。でも、まだまだ見つかっていない恐竜がたくさんいて、みなさんが研究者になる時代にも、わかっていないことがたくさんあるでしょう。今は1年間に40種ほど新種が見つかっていて、10年後には400種が見つかる計算ですが、それらは氷山の一角にすぎません。研究すればするするほど謎もどんどん増えていくので、ぜひそれらをみなさんに解明してほしいですね!
―─すごく楽しいお話、ありがとうございました! 6月18日のオンライン講座(トークライブ)もよろしくお願いします!
文