気象予報士・津田紗矢佳さん -気象のプロとして防災に挑む、伝える《好きをミライへつなげる講座》

テレビの天気予報でもおなじみの気象予報士。天気予報は、「今日は傘が必要なのかな」と判断するのに役立つだけではなく、気象災害から身を守るためにも欠かせません。今回は、気象キャスターとして活躍するかたわら、書籍の執筆や講演活動などで“気象翻訳者”としても活動する、津田紗矢佳さんにインタビュー。気象予報士としてどのような志を持ってお仕事をしているのかなどを聞きました!

津田紗矢佳
気象翻訳者・気象予報士・防災士。1987年、山口県出身。上智大学文学部英文学科卒業。大手法律事務所で渉外秘書として勤務したのち、2016年に気象予報士資格を取得。現在はウェザーマップに所属し、テレビ朝日「スーパーJチャンネル」気象キャスター、テレビ朝日気象デスクを務める。Yahoo!天気・災害動画出演中。防災・減災のために、天気や防災をわかりやすく伝える気象の翻訳者として執筆・監修・講演・解説などの活動を行っている。

飛行機から始まった空への興味

―現在、気象予報士・防災士として、主にどのようなお仕事をされているのか教えてください。

 今は気象キャスターとしてテレビ番組に出演し、天気予報や気象解説を行っています。テレビに出演するだけではなく、アナウンサーが読む気象ニュースの原稿づくり、出演する番組以外の天気予報に関する監修もしています。そのほか、バラエティ番組のロケの日の天気について、番組スタッフからの問い合わせに答えることも。テレビ局の仕事が休みの日には、子ども向けの講演活動を行ったり、雑誌や本などの原稿を書いたりもしています。

天気予報の放送ではクロマキー合成という手法が使われる。津田さんは何もない背景を指しているが、テレビ画面ではここに必要な気象情報の映像が映し出されている。

―今のお仕事のやりがいを感じるのはどんなときですか?

 自分が出した予報が当たったときはもちろんうれしいです。でもそれよりも、番組や講演会などの感想で「天気っておもしろいんですね」といってもらえると、とてもやりがいを感じます。

―空への興味のはじまりは何でしたか?

 もともとは飛行機が好きだったんですね。空を飛べるなんてとても素敵なことだな、と憧れていました。今でも飛行機の窓から雲海を眺めて、雲海に映った小さな飛行機の影のまわりに虹色の光が現れる「ブロッケン現象」が見られると、とてもうれしい気持ちになります。

 だから中高生の頃は航空業界で働きたいと思っていたのですが、大学を卒業するタイミングでは、就職はかないませんでした。でも今、気象予報士としてANAのWEBサイトでコラムを書いています。遠回りしましたが、飛行機と関係する仕事をする夢がかないました。

空を観察・撮影中の津田さん。空は仕事として向き合う対象であると同時に、ただ見上げて癒されることも。

―中高生のころの得意な科目や苦手な科目は何でしたか?

 得意科目は地学、英語、数学でした。地学は気象の単元が含まれており、大好きな空について学べるから好きでした。英語は外国の人ともコミュニケーションが取れることが魅力だと感じています。勉強を頑張ったおかげで海外のニュースや英語の文献も苦にはなりません。数学は、解いていく過程に夢中になりますね。気象予報士試験には数式がたびたび登場しますが、私は解くのが楽しかったです。逆に、苦手なのは現代文と漢文です。特に漢字が苦手で……

―そうだったんですね! 学生時代の経験で、今役立っているのはどんなことですか?

 受験勉強で、目標を立てて少しずつこなしていった経験ですね。 現代文や漢文は苦手科目でしたが、第一志望の大学の受験科目に現代文があったので、やらざるを得ませんでした。そこで、「この日までにこの問題を解く」などの小さな目標をたくさん立ててそれをひとつひとつ達成するようにしました。小さな成功経験を重ねることで、全く歯が立たなかったことがだんだんわかるようになり、「努力すればできる」と思えるようになりました。この経験が大人になってからも頑張る力になっています。

気象キャスターという道へ進むきっかけ

―気象予報士になろうと思ったきっかけを教えてください。

 気象予報士の資格を取る前は、法律事務所で秘書として働いていました。上司のスケジュールを組んだり、出張のチケットを取ったりするのも仕事のひとつでした。しかし、上司の出張中に「新幹線が名古屋の大雪で遅れて会議に間に合わないかもしれない」などの連絡が入ることもあり、「もっと天気のことを学びたい!」と思うようになったんです。秘書という一見天気と関係のないような仕事でも、天気と関係があるものなんですよね。

―資格試験に合格するまでは大変でしたか?

 気象予報士になるには、年2回行われる気象予報士試験に合格する必要があります。合格率は約5%。試験科目は学科一般、学科専門、実技の3科目あり、そのすべてで合格点以上を取らなければいけません。学科一般では天気のメカニズムや気象に関する法律について出題されます。学科専門では天気予報のしくみや出し方について出題されます。実技試験は記述式で、天気図を描いたり、そこから読み取れる現象や予想上の着眼点、災害の発生が予想される場合の注目点などが問われます。

 働きながらの試験勉強は大変でしたが、1年半かけて、3回目の試験で合格しました。勉強中、行き詰まってしまうこともありました。そんなとき、災害報道を担当する友人からの紹介で、大雨による災害を経験した人からお話を聞く機会があったんです。そこで印象に残ったのが「まさかこんなに降るとは思わなかった」という言葉。これを聞いて、避難行動につながる防災情報を発信する気象キャスターになりたいという決意が生まれました。

―そこから気象キャスターとしての道を歩むことになるんですね。

 はい。気象キャスターとして初めて働いたのは、2017年の4月から。最初の職場は秋田テレビでした。ここでは、秋田地方気象台の方々が親身になってくださいました。地方気象台はメディア向けに勉強会を開いてくれたので、よく参加したものです。おかげで職員の方々とも顔なじみになり、わからないことがあったらすぐに電話して聞いて、ずいぶんと助けてもらいました。

秋田で開催された勉強会に参加したときの様子。朝の喫茶店に集まって天気図と向き合う。

“気象翻訳者”としての決意

―毎年大きな被害をもたらす災害が起きていますが、気象予報士としてどんなことができると考えていますか?

 台風の接近など災害のおそれが高まっている状況のときは、テレビでは朝から晩まで「〇〇県では〇ミリの雨が降る」「雨のピークは〇時頃」などと放送しています。しかし、それでも「こんなに降るとは思わなかった」という声が視聴者から寄せられるんです。そういわれてしまうと落ち込みますが、それはなぜなのかをよく考えてみると、情報を受け取る人がどんな災害が起こるかを具体的にイメージできていなかったのではないかと思い至りました。

 それからは、気象情報はなるべく具体的にイメージできるように「翻訳」して伝えることを心掛けています。たとえば、風速25m/sの暴風と伝えてもピンときませんが、時速換算して90km/hと伝えれば、車に乗っている人は「ああ、高速道路で走るくらいの速さなんだな」とイメージしやすいですよね。

 現在は、「翻訳技術を磨きたい」という思いを胸に再び上京。雲研究者の荒木健太郎先生に弟子入りもしました。荒木先生は、SNSや本で多くの方にやさしい言葉で本質を伝えています。あの表現方法を学びたいと思ったのです。

津田さんの天気ノート。書き込みも多く、日々勉強し続けていることが伝わってくる。

―これからの夢や目標を教えてください。

 大きい目標としては、「こんなに降るとは思わなかった」という言葉が出てこないようにすること。気象災害は毎年どこかで発生しています。しかし、「雨や風などの激しさ=亡くなる人や怪我をする人の多さ」ではありません。ひとりひとりが災害を具体的にイメージできるようになり、命を守る行動をすれば、現象が激しくても犠牲者を減らすことができます。だから、気象関係者や地域のみなさんと協力して、ひとりでも亡くなる人を減らしたいと思っています。そのためにも、気象翻訳者としても一人前になり、翻訳の道を究めていきたいと思います。

―最後に、気象予報士の仕事に興味がある中高生にメッセージをお願いします。

 気象予報士の資格を取るのは難しいと思われていますが、試験の回数も年齢も制限がないので、自分なりのペースで合格を狙ってほしいです。気象予報士の資格を取ったら、一緒に働けることを楽しみにしています。

 気象予報士を目指さなくても、天気に親しむといいことがあります。気分が落ち込んだときは、空を見上げれば少しは気持ちが軽くなるのではないでしょうか。天気に詳しくなれば「今日はコートは必要かな?」などの判断が的確にできるようになって生活に役立ちますし、いざというときに早めに避難して身を守ることもできます。

 小さいときから天気の知識を持っていれば、次世代にも知識が伝わって、天気に興味を持つ世代が増えていくと思うんです。その結果、皆が災害時に自分で動けるようになれば、将来災害で犠牲者になる人は減っていくはずです。

―貴重なお話ありがとうございました! 5月3日のトークイベントもよろしくお願いします!

《見逃し動画配信》「好きをミライへつなげる講座」「好きをミライへつなげる講座」津田紗矢佳さんトークイベント

 テレビや講演会、書籍の執筆など幅広く活躍している気象予報士・防災士の津田紗矢佳さんが、2022年5月3日(祝)の「GWコカデミアフェス!」トークライブに登場。気象予報士になるまでの道筋、気象キャスターとしてのやりがい、さらには空を見るのが楽しくなる天気のポイントまで、気象のお話をたっぷり伺いました。

書籍情報 子供の科学サイエンスブックスNEXT 『空を見るのが楽しくなる! 雲のしくみ』

子供の科学サイエンスブックスNEXT 『空を見るのが楽しくなる! 雲のしくみ』

著/荒木健太郎・津田紗矢佳

津田紗矢佳さんが雲研究者の荒木健太郎さんと書いた書籍が発売中! このインタビューを読んで興味を持った子はぜひチェックしてみよう。著者のおふたりが気合いを入れてつくった動画はこちらから。

荒木先生の原稿の赤字は容赦なく、読者目線が足りていないときは「この部分は全部書き直し」といわれることも。荒木先生はとても忙しい方ですが、厳しい赤字を入れた後は、何度も直した原稿を読んでくれるんですね。この本では、雲のしくみを動画で紹介していますが、撮影する前にオンラインで話し合って、たくさんのアドバイスをしてもらったんですよ。



取材・文

今井明子 著者の記事一覧

1978年生まれ。首都圏在住。京都大学農学部卒。気象予報士。得意分野は科学系(おもに医療、地球科学、生物)をはじめ、育児、教育、働き方など。「Newton」「AERA」「東洋経済オンライン」「BUSINESS INSIDER JAPAN」「暦生活」などで執筆。著書に「こちら、横浜国大『そらの研究室』! 天気と気象の特別授業」(共著、三笠書房知的生き方文庫)、「異常気象と温暖化がわかる」(技術評論社)がある。気象予報士として、お天気教室や防災講座の講師、気象科学館の解説員なども務める。

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