ステージやテレビなどでアッと驚く科学実験を披露する、みなさんご存知、米村でんじろう先生。でも、でんじろう先生の職業ってなんだろう? 先生は「サイエンスプロデューサー」という肩書のようだけど、一体どんな仕事なのか。
今の仕事を始めたきっかけやサイエンスショーづくりの裏側、そして「科学のおもしろさを伝える仕事」に興味がある中高生のみなさんへのアドバイスなど、でんじろう先生に仕事の話をとことん聞きました。「でんじろう先生みたいになりたい」という人はもちろん、科学に関わる仕事がしたいすべての人に読んでほしいスペシャルインタビュー!
サイエンスプロデューサー米村でんじろう誕生秘話
──サイエンスプロデューサーとはどんなお仕事なのでしょう?
まず、「サイエンスプロデューサー」というのは、僕が勝手に名のり始めただけで、そういう仕事があるわけではないですよ(笑)。「科学のおもしろさをたくさんの人に伝える仕事」をしたいという思いで始めました。
──サイエンスプロデューサーと名のり始めたきっかけを教えてください。
大学院を修了したあと、私立の自由学園で3年間非常勤講師として勤め、その後都立高校の理科教師として11年勤務しました。教師時代は、生徒に興味を持ってもらえるように、実験を楽しんでもらえるような授業をしていました。
ところが、大学進学率の高い学校では実験中心の授業ばかり行っていると、「受験対策は大丈夫?」といわれてしまう。また、高校教師というのは授業だけをやればいいのではなく、生活指導や部活の指導、進路指導なども行わなければいけません。楽しい授業で科学を好きになってほしいと思っていましたが、教師として求められる他の仕事は自分にはあまり向いていなかった。だから40歳で教師を辞めることにしたんです。
―─教師を辞めて、サイエンスプロデューサーに転向したわけですね。
はい。実は教師時代からNHKの教育テレビ(現:Eテレ)の番組の実験協力や、科学館の展示を更新する際の手伝いをしていました。科学実験が得意だったので、自分の特技と経験を活かして、フリーランスでこのような仕事はできないものかと思いました。教師を辞めると決めてから、付き合いのあったテレビ番組の制作プロダクションや科学館の方などに連絡したところ、「それじゃあうちの手伝いをしてくれる?」と声をかけてもらって、少しずつ仕事をさせてもらえるようになったんです。行動を起こしたら仕事が生まれたんですよね。
その制作プロダクションがつくった番組で、僕が実験教室をする姿が放送されました。この番組が好評で、それを観たテレビ局からの出演依頼や講演依頼などがくるようになったんです。僕はフリーランスですから、生活費を稼ぐために、来た依頼に必死に応えていきました。
フリーで活動するにあたって、自分で名刺をつくらなければいけません。名刺をつくるのであれば何か肩書が必要。どんな肩書がいいだろうか……と考えて、「そうだ、自分の仕事は広い意味で科学のプロデュースを行う仕事だ」ということで、「サイエンスプロデューサー」という肩書を名のることにしたんです。
──プロデューサーって、テレビ番組のプロデューサーのように裏方の仕事のイメージがあります。
26年前、得意な実験を中心に、科学のおもしろさをたくさんの人たちに伝える仕事がしたいと思って高校教師を辞めました。僕が思い描いていたのは、科学施設の展示をつくったり、おもしろい実験の教材を開発したりする、ものづくりの仕事。プロデューサーというのは、制作の責任者のことですよね。
それがなぜか、人前に出る仕事が中心になってしまいました。思うようにはいかないものですね。
誰もやったことがない大きな実験ショーへの挑戦
──でんじろう先生といえば「サイエンスショー」です。サイエンスショーの仕事を始めたころについて教えてください。
テレビに出たことがきっかけで、学校の体育館や公民館などで、何かおもしろい実験をやってほしいという依頼がたくさん来るようになったんです。最初は学生アルバイトの助手を1人連れて、素朴な、身近にある道具を使ってやっていました。
──今のでんじろう先生のサイエンスショーを見ると、とても華やかな演出がされていますよね。どのようにして今の形になっていったのですか?
お客さんが増えてきて、大規模なホールで行うイベントに呼ばれるようになると、大きな会場でサイエンスショーを成功させることがとても難しいことを知りました。たくさんの人に楽しさが伝わるように、派手に煙を出したり、今まで使わなかったような薬品を使おうとしたりすると、大きな施設にはルールがあって、設備に支障があるかもしれないような演出は歓迎されません。
イベントの規模が大きくなるにつれ、「大きなショーをやるためには舞台のプロフェッショナルが必要なんだ」と実感しましたね。
大きなホールは元々、音楽や演劇をやるようにつくられています。施設側と演じ手との間に入って、ショーに向けて細かい調整をしてくれる舞台監督や照明、音響といったプロの裏方がいて、華やかなショーが出来上がっています。大きな舞台でのサイエンスショーはまだ誰もやっていなかったので、失敗や試行錯誤をしながら、10年かかって今の形ができてきたんです。
──試行錯誤の中で、見せる実験の内容も変化しましたか?
僕のサイエンスショーの中でも特にみなさんがイメージするのは、段ボール箱を叩いて煙のリングを出す「空気砲」ですよね。小さい会場で盛り上がったので、大きなショーではさらに迫力を出すために、装置を大きくしようとか、大きな音を出してみたらどうか、なんてアイディアを思いついては試していました。
ところが、箱を大きくしたところ、僕の姿が見えにくくなってあまり盛り上がらず……。大きな音を出す空気砲は、子供が怖がって泣いてしまったり、ちょっと凝った装置のハイテク空気砲をつくったこともあるんだけど、なぜかお客さんのウケが悪い……。何でかなと考えてみると、見た目がハイテクなものからリングの煙が出てきても、別に意外性がないんだよね(笑)。これは、手づくりの段ボール箱からきれいなリングの煙が発射されるからこそ、おもしろいんだと気づいたんです。
ずーっと同じ空気砲をやり続けているように見えるかもしれませんが、実は何度も何度も失敗を繰り返して、ショーの目玉の実験になるまで仕上げてきました。
──楽しいサイエンスショーにそんな舞台裏があったとは……。
年間でおよそ100回のサイエンスショーを開催していて、それが10年間となると約1000回! いろいろ試してはお客さんの反応を見て、改良を重ねてきました。同じ実験でも、回を重ねるごとに練り上げられていく。やっていることは、落語に近いかもしれませんね。
また、僕がやっているサイエンスショーは、ボランティアではなく、お客さんや依頼主から料金をいただいて行うものです。ビジネスとして成立していないと意味がありません。実験を豪華にすれば、それだけお金がかかります。そこまでお金をかけて、利益が出るのかどうかを考えなければいけません。
だから、年間100回を続けられて、お客さんに喜んでいただき、ビジネスとして成立するポイントを探ることが大切でした。スタッフとアイディアをいろいろ出し合うのは楽しいのですが、ぜんぶはできません。せっかく出てきたアイディアを絞り込むのってとてもつらいことなんですけどね。
【後編に続く】
後編では、でんじろう先生のこれからの目標や、将来「科学のおもしろさを伝える仕事」をしてみたいという中高生のみなさんへのアドバイスなど、さらに深堀りして聞いていきます!
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米村でんじろうサイエンスプロダクションによるショーも見られる!「チャリンコワールド2022」に注目
“科学の目”で自転車を分解。五感を通して体感できる特別展が、3月25日(金)~4月3日(日)、東京・科学技術館で開催されます! 米村でんじろうサイエンスプロダクションによるサイエンスショーも見られますよ。詳しくは公式サイトをチェック!
「技術と科学のCharinko World2022」概要
●会期:2022年3月25日(金)~4月3日(日)
●メインイベント:2022年3月26日(土)~27日(日)・4月2日(土)~3日(日)
●入場料:無料
●開催時間:9:30~16:30 ※3/25は15:00~より開会し、オープニングセレモニーがございます。
●会場:科学技術館1階 展示・イベントホール 他(予定)
●公式サイト: https://www.charinkoworld2022.jp/
取材・文