《子供の科学 深ボリ講座》アーティファクトって何?

『子供の科学』2024年7月号では『古生物学者が教える“とっておき”自由研究!』と題し、相場大祐先生と木村由莉先生に化石にまつわるいろいろなお話をうかがいました。その中でも、木村先生が熱く語っていたのがヤベオオツノジカの化石に付け足された「アーティファクト」。ここでは、本誌に載せきれなかったアーティファクトの秘密について深ボリしてお伝えします!

アーティファクトって何?

 「アーティファクト」という言葉には人工物や工芸品といった意味があります。古生物学の世界では「化石に人工的に付け加えられたもの」、特に「化石の欠損
けっそん
部を補うための人工物」という意味で用いられることがあります。

 生物の骨が完全な形状のまま化石として発見されることはまれで、砕けたり欠けたりした状態で見つかることが一般的です。このため、骨格全体を復元する前に破損した骨ひとつひとつの形態を復元し、まるごと失われた骨を補填
ほてん
する必要が生じます。こうした時、欠損部を補完するためにアーティファクトが付け足されるのです。

 なお、研究に用いるだけであれば、欠損部をアーティファクトで補わずそのままにしておくこともよくあります。破断
はだん
面から内部構造が観察できるという、化石が破損しているからこその利点も存在します。

化石とアーティファクト

 アーティファクトは化石に直接付け足してしまう場合と、化石のレプリカに付け足す場合があります。前者は化石を覆い隠してしまううえ、あとで形状を修正するのも難しいという問題があります。

ティラノサウルス・レックスのホロタイプ(種を命名する際の基準となる標本)の頭骨は実物化石(色の薄い部分)にアーティファクト(色の濃い部分)を直接付け足して復元されたが、その数年後には復元が不適切であったことが判明した。しかし化石を痛めずにアーティファクトを除去するのが難しかったため、その後100年近くにわたって古い復元のまま展示され続けた。復元を修正したホロタイプの頭骨が公開されたのは、2008年になってからである。(イラスト/ツク之助)
(G.Masukawa/著 ツク之助/イラスト『ディノペディア』(誠文堂新光社)より転載)

 こうした事情から、今日
こんにち
では博物館の所蔵する実物化石の標本にアーティファクトが直接付け足されることは少なくなっています。本誌でも紹介したように、実物化石を型取りして作ったレプリカにアーティファクトを付け足し、さらにそれを複製して展示するということが増えているのです。

 実物化石を組み立てて復元骨格として展示する際には、アーティファクトを実物化石に直接付け足すことが現在でも一般的です。しかし、実物化石やそのレプリカをアーティファクトなしで組み立てた復元骨格も存在します。北海道むかわ町の穂別博物館や沖縄県立博物館・美術館で展示されているカムイサウルスの復元骨格はレプリカを組み立てたものですが、もとの化石がかなり完全ということもあり、アーティファクトは鼻先や仙椎
せんつい
(腰の背骨)といった部分に限られています。

本誌でも紹介した、国立科学博物館の地球館にあるパキケファロサウルスの全身骨格は、実物化石(茶色)とアーティファクト(白)が簡単に区別でき、実物化石を研究のために取り外すことができるよう工夫されている。復元骨格の頭骨は茶色に着色したレプリカにアーティファクトが付け加えられたもので、アーティファクトなしの実物はそばのケースの中にある。(写真提供/国立科学博物館)

アーティファクトのつくり方

 アーティファクトの造型にあたっては、まずは同じ標本(個体)の反対側の骨、それがだめなら同じ種に属する他の標本、それもだめなら近縁種
きんえんしゅ
、といった具合に参考先を広げていきます。他の標本のレプリカを改造したり、化石の3Dデータを利用して造型したりすることもあります。アーティファクトの制作には美術的なセンスと古生物学の知識がどちらも要求されるため、アーティストが研究者と共同で制作することが一般的です。

 研究者があとから観察することを考慮すると、アーティファクトは実物化石やそのレプリカの部分と一目で区別できることが理想的です。このため、アーティファクトはそうでない部分とは異なる色や質感で仕上げるのが基本です。一方で、化石販売業者が販売する「商業標本」の中には、見映えを優先してアーティファクトとそうでない部分の区別が困難になるように仕上げられたものも多いようです。

スピノサウルスに近縁な恐竜イリタトルのホロタイプは、もともと「翼竜の頭骨」として販売されていた。研究の過程で鼻先やトサカの部分が商品価値を不当に吊り上げるためのアーティファクトだったことが判明したが、スピノサウルス科の頭骨としては今日でも最良の標本として知られている。(イラスト/ツク之助)
(G.Masukawa/著 ツク之助/イラスト『ディノペディア』(誠文堂新光社)より転載)

G.Masukawa 著者の記事一覧

サイエンスイラストレーター、ライター。科学的な思考プロセスを経て描く古生物の骨格図は国内外の研究者から高く評価されており、博物館やイベントの展示制作のほか、学術論文や専門書の図版を手がけることも多い。著書に「ディノペディア 恐竜好きのためのイラスト大百科」(誠文堂新光社)、「新・恐竜骨格図集」(イースト・プレス)。訳書に「アフターマン」、「新恐竜」(Gakken)。茨城大学大学院博士前期課程修了。

子供の科学2024年7月号

7月号は化石を大特集! 街中でアンモナイトを探すコツから、恐竜の全身骨格展示のヒミツまで、知らなかった化石の一面が見えてくる! 古生物学者による化石を使ったおすすめの自由研究テーマも紹介。 さらに、大理石に隠れた化石を探す、体験型の特大ポスターつき! 他にも、野菜の残りで布を染める「のこり染め」企画やスイーツまんが連載、段ボールでつくる「レインスティック」の工作など、盛りだくさんな内容です。

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