2月17日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が中心となって開発した新型ロケット「H3」試験機2号機の打ち上げが成功しました。「子供の科学5月号」では、H3ロケットの打ち上げ成功までの道のりや今後打ち上げられる予定の宇宙機を特集しました。ここでは、本誌では紹介しきれなかった、H3ロケット試験機2号機で打ち上げられた衛星やロケットから分離された衛星のその後を深ボリしてお伝えします!
続々と打ち上がる「超小型衛星」とは?
H3ロケット試験機2号機によって、ロケットの性能を確認するためのダミー衛星「VEP-4」に加えて、超小型衛星の「CE-SAT-IE」と「TIRSAT」が相乗りし て宇宙へと運ばれました。
これまでの人工衛星は、重量が何tもある大型衛星が中心でしたが、近年は技術が進歩により、500kg以下の小型衛星や100kg以下の超小型衛星が増えてきています。CE-SAT-IEは約70kg、TIRSATは約5kgです。
大型衛星よりも開発や打ち上げにかかる費用が安い超小型衛星が登場したことで、政府や宇宙機関だけでなく、いろいろな会社や研究機関が衛星の開発や運用にチャレンジできるようになりました。中には、趣味で衛星を開発して、打ち上げる人も出てきています。こうして、より高い性能を持った衛星やユニークな機能を持った衛星がどんどん生まれてきています。
CE-SAT-IEには、望遠鏡とミラーレスカメラを組み合わせた主光学系カメラと副光学系のコンパクトデジタルカメラが搭載されています。
宇宙から主光学系カメラが撮影した画像には、道路を走っている車や駐車場に停まっている車などが写っていて、道路の混雑状況の把握に役立てられることが期待されています。静止画だけではなく、動画を撮影したり、カメラの向きを変えると宇宙空間の天体も撮影したりできるのもCE-SAT-IEの特徴です。
TIRSATは、地表や海面の熱の変化を測定する熱赤外線センサが搭載された、超小型衛星としては世界的にもめずらしい衛星です。森林火災の検知や火山の監視、世界の工場の稼働状況などを調べることに役立てられます。
衛星との交信に欠かせない「地上局」
ところで、宇宙空間で衛星はどうやって動いているか知っていますか?
多くの衛星は、地上から送る指令(コマンド)を受信して、機体の姿勢を変えたり、カメラやセンサで地表を観測したり、健康状態を地上に伝えたりしています。衛星は太陽電池パドルによる発電によって電力を得ていますが、なるべく節電しなければならないので、コマンドを送って衛星のなかの装置の電源をオンまたはオフにする作業などもあります。
一般的に、衛星がロケットから分離されると、まずはたたんでいた太陽電池パドルを広げたり、衛星自身の健康状態を確認したり、姿勢を調整したりする「クリティカル運用」が行われます。
クリティカル運用が完了すると、次は地上から衛星に指令を送り、搭載されている装置の電源を入れて動作を確認するなど、ミッションの実行に向けた準備を整える「初期運用」が行われます。
その次は、いよいよ「定常運用」です。カメラやセンサを使った観測など、それぞれの衛星のミッションが本格的に始まります。
今回は、アークエッジ・スペースの保田友晶さんと松本健さんが衛星の運用について、詳しく教えてくださりました。
アークエッジ・スペースは、自社で開発した多数の超小型衛星を使って森林や海の観測を行ったり、太陽の近くを通過する彗星を探査する「Comet Interceptor(コメット・インターセプター)」の探査機や、将来的に人々が月面で生活するときに必要になる通信、月面版GPSを実現するための衛星の開発に参加したりしている会社です。
月面のインフラの構築や深宇宙探査に取り組むことでみがいた技術を、地球の周りを飛ぶ衛星の開発や事業にも活かそうとしています。H3ロケット試験機2号機で打ち上げられたTIRSATの運用も担当しています。
衛星にコマンドを送ったり、衛星から送られてくるデータを受信したりするには、アンテナが必要です。そこで、アークエッジ・スペースは、静岡県牧之原市にアンテナやアンテナのコントロール装置など、必要な設備をもった施設「地上局」をつくったといいます。
衛星の信号は、地上にある他の無線設備に影響がない範囲の電波を使わなければなりません。アークエッジ・スペースが扱っている超小型衛星の電波は携帯電話よりも弱い そうです。そんな微弱な電波を集めるために、地上10mの高さの場所に直径3 .9mの大きなパラボラアンテナを設置しています。
また、地上局を建てる場所選びも重要です。松本さんによると、衛星との交信がさえぎられてしまわないように、周りに強い電波を発する場所がないところを地上局の設置場所に選んだそうです。
この地上局と東京都内にあるアークエッジ・スペースの本社オフィスの衛星運用室は高速回線でつながっていて、衛星運用室から衛星にコマンドを送ることができます。
衛星と交信する運用室はどんな場所?
今回の取材では、アークエッジ・スペースの衛星運用室で、実際に超小型衛星の運用をする様子を見学させていただきました。
「地球低軌道」と呼ばれる上空約400kmから2000kmの軌道を周回している衛星は、日本の上空を1日に約4回通過します。衛星と通信できるのは、衛星が地上局の上空を通過するわずか10分から15分間だけ。パラボラアンテナで衛星を追いかけながら、限られた時間のなかで衛星にコマンドを送ったり、衛星からデータを受信したりしなくてはならないのです。
無事に衛星と通信することができるのか、筆者もドキドキしながら衛星運用室のモニターを見守りました。待っていると、衛星から電波が届いている様子がモニターに映し出されました。運用を見学していると、衛星が本当に宇宙で動いていることが実感できたのと同時に、宇宙から届く弱い電波をキャッチするのはすごい技術だと感心しました。
衛星を打ち上げた後、初めて交信に成功したときはどんな気持ちだったのでしょうか。アークエッジ・スペースの保田さんに尋ねました。
「衛星が乗ったロケットが無事打ち上げられたとき、まずはほっとしました。続いて、宇宙空間に放たれた衛星からはじめてテレメトリデータを受信したと連絡があったときは、社内でも歓声があがり『よかったな』と感じました。」
どんどん打ち上がっていく超小型衛星に今後も注目です。
文
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