《コカデミア カガクノ英語》 第15回 ハチドリの餌さがし

英語の科学トピックを読み解きながら、科学と英語の知識を学ぶ一挙両得のコーナーへようこそ。背景知識とともに英単語を知ることで、言葉の深みを味わおう!

 ハチドリは、まるで空中に静止するかのようにホバリングしながら花の蜜を吸います。花の蜜は栄養豊富ですが、その蜜には微生物の発酵によるアルコールが含まれていることがあります。今回は、ハチドリがアルコール入りの蜜を好んで吸うことが確かめられたというニュースをもとに、「餌をとること」にまつわる言葉を深ボリします。このニュースは「コカトピ」2023年9月号に掲載しました。まずは、そのニュースを読んでみましょう。

今回のトピック

ハチドリはアルコールがお好き?

 ハチドリは花の蜜をたくさん吸います。ところが、その蜜にはアルコールが含まれることがあります。蜜の成分である糖類が、微生物に代謝されてアルコールになることがあるからです。アルコール入りの花蜜を好む哺乳類がいることは確かめられていますが、鳥類については未解明でした。
 このほど、カリフォルニア大学バークレー校(アメリカ)の研究グループは、ハチドリが野生の鳥類として初めて、アルコール入り砂糖水を吸うことを発見しました。
 この研究では、人工的に0%、1%、2%のアルコール入り砂糖水を用意し、ハチドリ3羽を使って、その好みを調べました。その結果、ハチドリはアルコール1%の砂糖水を、ふつうの砂糖水と同じように魅力的に感じることがわかりました。一方、アルコール2%の砂糖水は、半分しか口にしませんでしたが、このときアルコール1%の砂糖水と同じ量のアルコールを消費していることになると考えられます。
 今後、研究グループでは、アルコールがハチドリの行動に与える影響についても調べる予定です。

 この記事のもとになった論文のタイトルは「Hummingbird ingestion of low-concentration ethanol within artificial nectar」です。ざっくりと訳すと「ハチドリ(hummingbird)は人工的につくった花蜜(artificial nectar)に含まれる低濃度エタノール(low-concentration ethanol)を摂取する」といったことを意味するタイトルです。ingestionは「(口から体内への)摂取」を表します。

ここに注目① Nectar feeding

 まずは論文中にでてくる文章をみてみましょう。

Nectar feeding is widespread among birds.
花蜜食は鳥類では広くみられる。

 ハチドリはホバリングして蜜を吸います。翼を高速で羽ばたかせることで、空中で静止しているようホバリングができます。翼を高速で動かすのに、たくさんのエネルギーが必要ですが、それを支えているのが花の蜜です。

 feedingは「食べること」を表すので、Nectar feedingは「花の蜜を食べること」を意味し、ハチドリなどの鳥類の場合には「花蜜食
かみつしょく
」と訳します。

 花蜜食の鳥はどのくらいいるのでしょうか? 地球上に棲む鳥類は約1万種と見積もられていますが、そのうち花蜜食の鳥類は約 950 種とされます。

 ハチドリのような花蜜食の鳥類は、蜜を吸うときに花粉がくちばしや体の表面にくっつくので、花粉を運ぶ「送粉者」(pollinator)としての働きがあります。pollinatorについては、カガクノ英語 第10回でも紹介しています。ちなみに、花蜜食の鳥や昆虫が、花粉を運ばずに、花蜜を奪うことを「盗蜜
とうみつ
」といいます。

ここに注目② foraging 

 次の文章はこちらです。

For a foraging Anna’s Hummingbird, 2% ethanol in nectar may simply not be experienced in the wild.

採餌(foraging)するアンナハチドリ(Anna’s Hummingbird)にとって、花蜜に含まれる2%のエタノール(ethanol)は野生では経験しないかもしれない。

 辞書を調べると、forage には「食べ物を探し回る」、foragingには「狩猟採集」といった意味があります。上の文章では、foragingを「採餌
さいじ
」と訳しています。生物学では、「採餌」(foraging)には、食べることだけでなく、食物を探し、認識し、捕らえるためになされるすべての活動が含まれています。ハチドリの採餌といった場合には、色や香りを手がかりに蜜のある花を探しだし、ホバリングしながら、花蜜を吸うといった行動が含まれることになります。

 生物学では採餌行動(foraging behavior)という用語も使われますが、この場合は「食物を獲得することに関わるすべての行動」を指すことになります。動物にとって食べることは、餌を探すことから始まるのです。

 「食べること」を表現する言葉はいろいろあるので調べてみましょう。そして、食べることに注目して、動物を観察してみるのも楽しそうですね。

論文情報
タイトル
Julia Choi et al.
Hummingbird ingestion of low-concentration ethanol within artificial nectar.
Royal Society Open ScienceVolume (2023) 10: 230306.
https://doi.org/10.1098/rsos.230306


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文筆家、植物学者。博士(学術)。主な著書は『ワザあり! 雑草の生き残り大作戦』(誠文堂新光社)、『生きもの毛事典』(文一総合出版)、『ヤバすぎ!!! 有毒植物・危険植物図鑑』『有毒! 注意! 危険植物大図鑑』(ともに、あかね書房)、『タンポポハンドブック』(文一総合出版)、『わたしのタンポポ研究』(さ・え・ら書房)、『身近な草花「雑草」のヒミツ』(誠文堂新光社)など。中学校教科書「新しい国語1」(東京書籍)に「私のタンポポ研究」掲載中。 http://www.hoyatanpopo.com/

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