《コカデミア カガクノ英語》 第14回 猛毒キノコのdeath cap

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 秋になるとキノコがたくさん生えてきます。おいしいキノコは秋の楽しみです。その一方で、毒キノコも生えていますし、中には、間違って食べてしまうと命に関わるような猛毒のキノコもあります。今回は、猛毒キノコの解毒剤を発見したというニュースから、キノコについて深ボリします。このニュースは「コカトピ」2023年8月号に掲載しました。まずは、そのニュースを読んでみましょう。

今回のトピック

猛毒キノコの解毒剤を発見

 タマゴテングタケは猛毒キノコです。日本を含め世界各地で中毒事故が起きています。中国では、ここ10年で3万8000人以上の食中毒と800人近くの死者が報告され、キノコ中毒による死因の90%以上を占めます。その主な毒素は、アマトキシン類のα-アマニチンという、アミノ酸でできたペプチド毒で、細胞内でタンパク質の合成を妨げる作用があります。このキノコを半分も食べれば肝臓や腎臓がダメージを受けて、死に至る可能性がありますが、α-アマニチンに対する解毒剤はありません。
 このほど、中山大学(中国)などの研究グループは、タマゴテングタケの毒の作用メカニズムを解明し、解毒剤になりそうな化合物を発見しました。
 その化合物はインドシアニングリーンという色素です。この化合物によって、培養した肝細胞やマウス体内で、α-アマニチンの作用が妨げられることがわかりました。今後、ヒトでの有効性や安全性が確かめられる予定です。じつはこの化合物は、欧米などですでに肝臓や心臓などの検査に使われているので、安全性が高いと期待されます。

 タマゴテングタケの誤食で大勢の人が亡くなっていることがわかりますね。さて、この記事の元になった論文には、以下のようなセンテンスがあります。

The “death cap”, Amanita phalloides, is the world’s most poisonous mushroom, responsible for 90% of mushroom-related fatalities.

 ざっくりと訳すと「『デスキャップ』(death cap)とも呼ばれるタマゴテングタケ(学名はAmanita phalloides)は、世界で最も猛毒のキノコ(the world’s most poisonous mushroom)であり、キノコによる死亡事故(mushroom-related fatalities)の90%を占める(responsible for 90%)」といった意味になります。

ここに注目① mushroom と fungi

 上のセンテンスでも紹介しましたが、毒キノコはpoisonous mushroom といいます。mushroom はキノコのことで、毒キノコに対して、食べられるキノコは食用キノコ(edible mushroom)といいます。

 ところで、キノコは何の仲間でしょうか? 改めて尋ねられると答えに迷ってしまうかもしれません。

 土や枯れ木などからニョキニョキと生えていて、その姿は植物のようにも見えますよね。遠い昔、キノコが植物の仲間だと考えられていた時代もありましたが、現在ではキノコは菌類(fungi)に分類されています。植物とはまったく別のグループというわけです。菌類(あるいは真菌類)には、キノコ類(mushrooms)のほかにも、カビ類(molds)や酵母類(yeasts)が含まれます。

ここに注目② death cap 

 タマゴテングタケを指す「death cap」は、日本語で「死のカサ」といった意味になります。なんとも恐ろしい名前ですね。capは、帽子(野球帽)を意味するキャップとして日本語に定着していますが、キノコのカサの部分もcapと呼ばれます。キノコの体について、もう少し詳しくみてみましょう。

 私たちが「キノコ」と呼ぶ、土や枯れ木などからニョキニョキと生えている部分は、科学の用語では、子実体(fruiting body)といいます。子実体(いわゆる「キノコ」と呼ぶ部分)には、カサ(cap、あるいはpileusともいう)があり、カサは柄(stem 、あるいはstipeともいう)で支えられています。カサの裏にはたくさんのヒダ(gills)があります。それらのヒダの部分では、無数の胞子(spores)がつくられます。胞子は風に乗って遠くへと運ばれます。家にある、食用のシイタケなどで、子実体を確認しながら覚えてみましょう。

fruiting body 子実体 
cap カサ *pileusともいう
stem  柄  *stipeともいう
gills(単数形/gill) ヒダ
spores(単数形/spore) 胞子

 スーパーで売られているキノコ類は手に取って観察するのに適していますし、街や野原のキノコもそっと観察する楽しみがあります。その一方で、身近な場所に毒キノコが生えていることもあります。危険なので、決して口にしないようにしましょう。残念ながら、毒キノコに共通する特徴はありません。そのため、簡単に毒キノコを見分けるコツなどもありませんので、キノコを食べるときには詳しい人に確認してもらいましょうね。

 

論文情報
タイトル
Wang B. et al.
Identification of indocyanine green as a STT3B inhibitor against mushroom α-amanitin cytotoxicity
Nature Communications (2023) 14: 2241.
https://doi.org/10.1038/s41467-023-37714-3


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文筆家、植物学者。博士(学術)。主な著書は『ワザあり! 雑草の生き残り大作戦』(誠文堂新光社)、『生きもの毛事典』(文一総合出版)、『ヤバすぎ!!! 有毒植物・危険植物図鑑』『有毒! 注意! 危険植物大図鑑』(ともに、あかね書房)、『タンポポハンドブック』(文一総合出版)、『わたしのタンポポ研究』(さ・え・ら書房)、『身近な草花「雑草」のヒミツ』(誠文堂新光社)など。中学校教科書「新しい国語1」(東京書籍)に「私のタンポポ研究」掲載中。 http://www.hoyatanpopo.com/

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