「子供の科学」2023年9月号の「教えてセンパイ!」で取材したのは、開成高等学校 折り紙研究部。折り紙といえば、日本人なら必ず通るメジャーな遊びのひとつですよね。ただ、開成高校の折り紙研究部の部員が折るのは、私たちが幼少時代に折っていたものとは少し異なり、とても複雑で繊細。「これ本当に1枚の紙でできているの?」「どこをどう折れば、この仕上がりになるんだ!?」と驚く作品ばかりなのです。今回は、そんな知られざる折り紙のディープでユニークな世界について、部員の皆さんから詳しくお話を聞かせてもらいました。
折り紙を折るには3つの方法が!
改めて折り紙とは何でしょうか? シンプルにいうと「1枚の紙をさまざまに折ることで、いろいろな形を表現すること」ですね。部長の村井くんに聞くと、基本「紙は正方形の1枚だけ、はさみは使わない」のがルールのよう。
その上で部員の松村くんが教えてくれたのが「折り紙を折るためには3つの方法がある」ということ。3つの方法とは「“折り図”を見て折る」「“展開図”を見て折る」「“創作“で折る」ことだと話します。
まず、どんな人でも最初に着手するのが「“折り図”を見ながら折る」こと。折り図とは、文字通り折り方の説明をする図のこと。図を見ながら折っていくのは、読者のみんなも経験あるのでは? もちろん、中には難易度が高い作品が存在し、すごく複雑だったり、出来上がりまでに時間を要したりしますが、それでも諦めずに手順通り手を動かしていけば、いずれは完成に辿り着くことができます。
次に難易度がグンとアップするのが「“展開図”を見て折る」ことです。折った作品を展開する(=広げる)と、折り線のあとが確認できますが、その折り線を図として表したものが“展開図”。部員によると、世の中には折り図はなく、展開図だけ公開されている作品が数多くあるのだそう。当然、どこをどう折ったらいいかは示されているものの、どこからスタートするかなどの手順はまったく紹介されていないので、展開図を見て折ることがどれだけ大変かなんとなく想像できますね。
そしてさらに難しいのが「自分で折り方を考える“創作”」です。蓄えた知識を発展させ、一から折り方を考えながら、自分がイメージするオリジナルの作品を折っていきます。開成の折り紙研究部をもってしても、全員が創作で折れるわけではないので、創作で折ることはとても難易度が高い! ちなみに折り紙研究部の中には創作をして、その展開図を書き上げる強者も。かっこいいですよね!
作品を折るときは紙にもこだわる!
さて、部員のみんなが作品を折るときは最初に試作をし、そのあと、自分が選んだ紙を使って本番の作品を折っていくのだとか。紙にもこだわりがあり、「この作品はこれで折ったらおもしろそう!」(村井くん)という理想の紙を求めて、都内の紙専門店に足を伸ばすこともよくあります。ときには「なんかイメージと違った…」だったり、「この紙だと折りにくい」だったりするそうですが、それも含めて紙選びは折り紙の醍醐味です。
この日、村井くんが折っていたのはエンシェント・ドラゴン。こちらはニュアンスのある和紙を使っていますが、和紙のくしゅくしゅ感がドラゴンのザラザラした表皮の質感をイメージさせますね! また、松村くんが折っていたのは鳩時計。段ボールっぽい質感のくすんだ紙を使っていて、鳩時計のアンティークな雰囲気にぴったりです。
“仕上げ”は作品の質を左右する大事な作業
今回の取材では部員の「創作で折った」、完全オリジナル作品も見せてもらいました。ここでは、二又くんのオオカミとカブトムシ、ノコギリクワガタをピックアップします。
「最初は具体的な動物の種類というよりは、なんとなく四足歩行の動物を折りたいなと思って始めました。試行錯誤で折り進め、足と首ができたときに遠吠えしているオオカミのイメージが浮かんだんです。気に入っているのは折り紙の表裏の二色を両方使ったところ。専門用語で“インサイドアウト”と呼ばれる技法ですが、二色を使うことで、毛並みの薄いところと濃いところや耳の外側と内側などをわかりやすく表現しています。また、“仕上げ”で足の筋肉を立体的に見せたのもポイントです」(二又くん)
部員から“仕上げのプロ“と呼ばれる二又くん。折り紙の作品づくりでは、折ったあとにボンドやのり、針金などで、形を整えたり固定したりして、完成度を高めることを“仕上げ”と呼びます。二又くんが折ったカブトムシとノコギリクワガタも仕上げによって、よりリアルな質感を表現。「クワガタの角の湾曲具合やとげの部分などを本物っぽく見せるためにのりで固定。とげの位置は仕上げの段階で最終調整しました」
ひとつの作品を仕上げるのに折るだけでも何時間もかかるという複雑な折り紙。仕上げにも実は相当な時間が必要です。過去に「龍神3.5」という作品を折った村井くんは「たくさんの龍のうろこ部分を折るのが本当に大変でしたが、一枚一枚が立体的に立ち上がるようにボンドを施したのも果てしなく時間がかかりました…」と振り返ります。それでも完遂する目標達成力と粘り強い集中力はさすが! ほかにも平面の紙を立体に仕上げる数学的想像力や、見本をじっくり眺めて正確に読み込む力、手先の器用さなども必要で、折り紙に親しむ中で養われる能力は本当にたくさんあるんだろうなと感じられました。
秋に行われる文化祭では、毎年人気の部員全員で折る超巨大作品も展示されるとのこと。一般参加でも大歓迎で、部員の中には小学生時代に文化祭で折り紙研究部の作品を見て、進路を決めたという人も! 気になった人は文化祭に足を運んで、ぜひ本物を見てみてくださいね。きっとびっくりしますよ!
今回、取材した開成高校折り紙研究部のことは、本誌連載(2023年9月号掲載)で取り上げているので、こちらもぜひ、読んでみてくださいね。今後も「教えてセンパイ!」(奇数月掲載)では、自分の興味をとことん突き詰められる学校や部活動を紹介していきます。ぜひ、楽しみにしていてください!
撮影/川上秋レミイ
取材・文
コカネットプレミアム(DX)会員は、雑誌『子供の科学』バックナンバー電子版が読み放題! 以下をクリック☆