《コカデミア カガクノ英語》 第12回 実がなるまで何年かかる?

英語の科学トピックを読み解きながら、科学と英語の知識を学ぶ一挙両得の新コーナーへようこそ。背景知識とともに英単語を知ることで、言葉の深みを味わおう!

 樹木の成長はゆっくりで、花が咲くまでにはふつう長い年月がかかります。今回は、ポプラを使った研究で、開花を数か月に早めることに成功したという驚きのニュースを紹介します。このニュースは、2023年3月号『子供の科学』の「コカトピ」にも掲載しました。まずは、そのニュースを読んでみましょう。

今回のトピック

わずか数か月で樹木の花を咲かせる方法を開発

 野菜の品種改良では、よりよい特徴をもつ品種ができたかどうかはふつう1年以内に確認できます。なぜなら、芽が出てから種子が実るまでに大抵1年かからないからです。ところが、樹木の場合、成長して次世代となる種子ができるまでに数年~数十年かかるため、品種改良には長い時間がかかります。
 このほど、ジョージア大学(アメリカ)などの研究グループは、ゲノム編集技術により、ポプラの開花抑制遺伝子を改変して、約7~10年かかる開花の開始時期を3~4ヶ月に早め、1年に及ぶ花の形成期間を数日に短縮することに成功しました。
 ポプラは研究によく使われる樹木であり、製紙原料やバイオエタノール生産でも期待されています。すでにゲノム解読が完了していて、このたびの研究でも活用されました。今回新たに開発された画期的な技術によって、樹木が花を咲かせるまでの年月が短縮されると、品種改良が効率的に進むと考えられます。例えば、乾燥に強い、高い気温に強いといった特徴の樹木を、より早くつくりだせるようになるでしょう。

 この記事の元になった論文には「In vitro floral development in poplar: insights into seed trichome regulation and trimonoecy」と、難しいタイトルがつけられています。タイトルの後半部分は今回の記事とはあまり関係がないので、ここでは省略します。ということで、タイトルの前半部分である「In vitro floral development in poplar」をみてみましょう。ざっくりと訳すと「試験管内(In vitro)でのポプラ(poplar)の花の発生( floral development)」となります。

 「In vitro」(イン・ビトロ)という聞き慣れない用語がでてきますね。この用語は、日常生活ではふつう使われませんが、生物学ではよく使われます。意味としては、実験が、試験管内やシャーレ上などで、人為的にコントロールされた条件のもと進められていることを表しています。言葉をかえると、生体内や自然環境などのそのままの状態ではない、ということになります。そして、この論文では、「In vitro」と記すことで、試験管で実験的にポプラの組織を培養したり遺伝子を調べたりして花の発生について研究を行った、ということを表しているのです。

 さて、次のセンテンスを読んでみましょう。

Woody perennials including poplars have a juvenile phase that ranges from several years to decades in length.

 直訳すると「ポプラなどの木本植物(Woody perennials)には、数年から数十年の(ranges from several years to decades in length)幼木相(juvenile phase)がある」といった感じになります。このセンテンスには、いくつかの重要な用語が含まれていますので、じっくりとみていきましょう。

ここに注目① Woody plant

 みなさんもよく知っている wood という言葉には「木」や「木材・木質」などの意味があり、woodyには「樹木の多い」、「森林の」、「木材の・木質の」などの意味があります。

 さて、植物の分け方として、日常的に使われるのが「草」と「木」です。タンポポやヒマワリは草で、ポプラやブナは木ですよね。生物学では、草を草本植物
そうほんしょくぶつ
(herbaceous plant)、木を木本植物
もくほんしょくぶつ
(woody plant)といいます。

草本植物 herbaceous plant
木本植物 woody plant

 植物の分け方として、もうひとつ覚えておきたいのが、「一年生植物」(annual plant)と「多年生植物」(perennial plant)という用語です。種子から芽が出て、花が咲いて種子が実り、枯れるまでの期間が一年以内の植物が一年生植物で、何年も生き続けるのが多年生植物です。一年生植物はすべて「草」ですが、多年生植物には「草」も「木」もあります。

一年生植物 annual plant
多年生植物 perennial plant

 ところで、上のセンテンスでは、woody perennials を「木本植物」と訳しています。あまり一般的な言葉ではなく、少しややこしいのですが、woody perennials は「木質
もくしつ
多年生植物」と訳されることがあります。ざっくりとした意味では、森林に生えている樹木のことではなくて、耕作地や草地で育てているコーヒーノキやチャノキ、ゴムノキ、油ヤシなどの樹木を指すことがあるようです。ポプラもそうした枠に入るというわけです。こういった言葉は、どういう精度の情報を求められているか、誰に伝えたいのかで訳し方を工夫するとよいですね。

ここに注目② juvenile/adult

 「桃栗三年柿八年」という言葉を聞いたことがあるでしょうか? 種子が発芽してから果実ができるまでに、桃と栗は3年、柿は8年かかることを表していて、どんなものにも相応の年数がかかることのたとえとして使われます。桃、栗、柿はいずれも樹木で、花が咲いて実がつくまでには長い年月がかかるというわけです。

 樹木では、種子が発芽した小さな個体(「実生
みしょう
」といいます)が成長して、花が咲いて、果実がつくまでに長い年月がかかります。生物学では、実生が成長する期間を「幼木相
ようぼくそう
」(juvenile phase)といい、その後花を咲かせ果実ができる期間を「成木相
せいぼくそう
」(adult phase)といいます。ポプラでは、幼木相が数年から数十年ということですから、その期間は花が咲かず、果実もつかないことがわかります。

幼木相 juvenile phase
成木相 adult phase

 「桃栗三年柿八年」には、「柚子の大馬鹿十八年」と続く言葉もあるそうです。実がなるまでに18年もかかるとなると、「大馬鹿」といいたくなるかもしれませんね。みなさんが好きな果樹について、果実ができるまでの年月を調べてみると、面白い発見があるかもしれませんよ。

参考論文
タイトル
In vitro floral development in poplar: insights into seed trichome regulation and trimonoecy
著者
Ortega M.A. et al.
論文情報
New Phytologist (2023) 237(4): 1078-1081
https://doi.org/10.1111/nph.18624


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文筆家、植物学者。博士(学術)。主な著書は『ワザあり! 雑草の生き残り大作戦』(誠文堂新光社)、『生きもの毛事典』(文一総合出版)、『ヤバすぎ!!! 有毒植物・危険植物図鑑』『有毒! 注意! 危険植物大図鑑』(ともに、あかね書房)、『タンポポハンドブック』(文一総合出版)、『わたしのタンポポ研究』(さ・え・ら書房)、『身近な草花「雑草」のヒミツ』(誠文堂新光社)など。中学校教科書「新しい国語1」(東京書籍)に「私のタンポポ研究」掲載中。 http://www.hoyatanpopo.com/

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