《コカデミア カガクノ英語》 第8回 「耕すこと」の始まりと広がり

英語の科学トピックを読み解きながら、科学と英語の知識を学ぶ一挙両得の新コーナーへようこそ。背景知識とともに英単語を知ることで、言葉の深みを味わおう!

今回のトピック

オリーブは7000年前に栽培されていた!?

 私たちはさまざまな果樹を栽培して、日々の食料にしています。果樹はごく身近な存在ですが、その栽培の歴史は、まだまだ謎だらけです。今回は、オリーブとイチジクが7000年前には栽培されていた、というニュースを紹介します。このニュースは「コカトピ」2022年9月号で掲載しました。まずはニュースの内容をみてみましょう。

 オリーブは地中海沿岸の代表的な果樹です。広く栽培されていますが、オリーブの栽培化の歴史については、多くの謎が残されています。
 このほど、テルアビブ大学とヘブライ大学(ともにイスラエル)の研究者は、イスラエルのヨルダン渓谷にあるテル・ツァフ遺跡では、7000年前にはオリーブとイチジクが栽培されていたことを発見しました。これは世界最古の果樹栽培の証拠にもなります。
 遺跡から出土した大量の木炭について、その特徴を顕微鏡で調べたところ、それらの大部分がオリーブだとわかりました。遺跡のあった地域はオリーブの自生地ではないことから、木炭化した大量のオリーブは栽培されていたものだと考えられます。さらに、木炭の中に、イチジクの剪定された枝もあったことから、イチジクも栽培されていた可能性が高いようです。
 オリーブオイルやテーブルオリーブ、ドライイチジクは、人々を健康にし、さらに長距離の交易などに適していたため、古くから栽培されていたのだろう、と研究グループでは考えています。

 この記事の元になった論文のタイトルは「7000-year-old evidence of fruit tree cultivation in the Jordan Valley, Israel」です。直訳すると、「イスラエル、ヨルダン渓谷における(in the Jordan Valley, Israel)7000年前(7000-year-old)の果樹栽培(fruit tree cultivation)の証拠(evidence)」となります。

ここに注目① cultivation

 論文の中には、次のようなセンテンスがあります。

The charcoal assemblage of Tel Tsaf provides the earliest evidence of olive cultivation outside its natural distribution.

 ざっくり訳すと「テル・ツァフ遺跡(Tel Tsaf)から出土した木炭(charcoal)類は、自生地(natural distribution)から外れた地域でのオリーブ栽培(olive cultivation)の最古の証拠(earliest evidence)となる」といった意味になります。

 この論文では、上のセンテンスの「オリーブ栽培(olive cultivation)や、論文タイトルの「果樹栽培(fruit tree cultivation)というように、cultivationという単語が何度も登場します。

 cultivation は、生物学では「耕作、栽培、農耕、養殖、(細菌などの)培養」といった意味でよく使われます。その動詞は cultivate で、意味は「耕作する、栽培する、養殖する、培養する」などです。

 cultivation よりも日本語に浸透している単語に culture がありますね。「カルチャー」や「文化」と訳され、なじみ深い culture ですが、その元々の意味は「耕す」ことです。人の心を耕すことから文化という意味になったといわれます。じつは、culture は、cultivate やcultivation、あるいは agriculture(農業)などとともに、「耕す」から派生した単語です。これらの単語は、まとめて覚えてしまうとよいかもしれませんね。

 ところで、日本語では「文化」という意味で使われることが多い culture ですが、ほかにも培養、養殖、栽培といった意味があります。たとえば、生物学でよく使われる「細胞培養」はcell culture といいます。

ここに注目② domestication

 それでは、次のセンテンスをみてみましょう。

The literature regarding on the timing of fig domestication produced inconclusive and sometimes contradictory results.

 直訳すると、「イチジク(fig)の栽培化(domestication)の時期に関する文献(literature)では、結論は出ておらず(inconclusive)、時には矛盾する結果(contradictory results)も出ています。」となります。要するに、イチジクの栽培化がいつ始まったのか、まだはっきりわかっていないということです。

 先ほどの cultivation が「栽培」なのに対して、domestication には「栽培化」という意味があります。domestication というのは「人間が野生の動植物から、それまでに存在しなかった家畜や栽培植物をつくり出すこと」です。このように、domestication は動物にも植物にも使う単語ですが、動物については家畜化、植物については栽培化と訳します。

 私たちホモ・サピエンスが出現したのは約20万年前で、農耕が始まったのは約1万2000年前とされます。農耕が始まってから、さまざまな動植物が家畜化されたり、栽培化されたりしてきましたが、その起源については証拠が少ないことから、まだ謎が多く、議論が続いています。果樹の栽培化も、やはり謎だらけというわけです。

 cultivation と domestication は、日本語にすると、少し似た感じがしますが、それぞれの意味は大きく異なります。農耕の歴史、家畜や作物の誕生など、人とのかかわりが深い話では、よく使われる単語なので、覚えておくと便利ですよ。

参考論文 
タイトル
7000-year-old evidence of fruit tree cultivation in the Jordan Valley, Israel
著者
Langgut D. & Garfinkel Y
論文情報
Scientific Reports (2022) 12. 7463.
https://doi.org/10.1038/s41598-022-10743-6


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文筆家、植物学者。博士(学術)。主な著書は『ワザあり! 雑草の生き残り大作戦』(誠文堂新光社)、『生きもの毛事典』(文一総合出版)、『ヤバすぎ!!! 有毒植物・危険植物図鑑』『有毒! 注意! 危険植物大図鑑』(ともに、あかね書房)、『タンポポハンドブック』(文一総合出版)、『わたしのタンポポ研究』(さ・え・ら書房)、『身近な草花「雑草」のヒミツ』(誠文堂新光社)など。中学校教科書「新しい国語1」(東京書籍)に「私のタンポポ研究」掲載中。 http://www.hoyatanpopo.com/

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