11月8日(火)は、『子供の科学』11月号の「Pick Up!」でも取り上げた、今年最大の天体ショー「皆既月食」と、超激レア現象、月食中の月に天王星が隠される「天王星食」があった。この日は、太平洋側の地域を中心に日本全国の広い範囲で天気に恵まれ、神秘的な天体ショーを楽しめた人も多いだろう。みんなは観察できたかな?
「月食」とはなんぞや? 簡単におさらい
月食とは、太陽-地球-月が一直線に並び、満月が地球の影の中に入り込む現象だ。満月の度に毎回月食が起こらないのは、地球の公転軌道面(黄道面)に対して、月の公転軌道面(白道面)が約5.1°傾いているためだ。
今回のように月全体が地球の影にすっぽり入り、満月が赤黒い赤銅色に見えるのが「皆既月食」。月の姿が完全に消えず赤黒くほのかに見えるのは、地球の大気を通り抜けた赤い光(夕陽が赤いのと同じ原理)が月面を照らすためだ。
ピッカピカの満月が次第に欠けて光を失う
11月8日の皆既月食の観察条件は最高だった。欠け始めから皆既食(継続時間は1時間26分!)を経て、元の満月に戻る全経過を程良い時間帯に観察できたのだ。
満月が東の空から昇って、18時過ぎから部分食が始まり(欠け始め)、18時40分を過ぎたころに食分0.5(月の直径の半分のところまで地球の影が食い込む)、19時16分に食分1.0、つまり皆既食となった。
時間経過とともに月は徐々に光を失って、地球の影の部分が赤銅色に染まっていくその様子は、それはもう神秘的! 夜空全体もグッと暗くなってそれまで見えていなかった星々が輝き始め星空が広がっていくのだ。
私は千葉県の九十九里浜に観測地に選んだが、皆既月食の観察は、できれば星空がきれいに見える場所が超オススメ! 皆既中は満天の星。星空を背景に赤銅色の月がポッカリと浮かぶその光景を目の当たりにすれば感動も100倍。
そして、ちょうどこの時期は、おうし座流星群が活動期間中で(とくに今年は火球と呼ばれる明るい流星の出現が多い)、月食中にいくつか流星を観察することができた。
皆既月食中に「天王星食」、激レア現象
何といっても今回、ニュースでも騒がれていた、“442年ぶり!皆既月食中に惑星食”という現象も起きたのだ。赤銅色の神秘的な月の背後に、天王星が隠される現象だ。天王星は青緑色をした約6等級(※)の明るさの惑星で、さすがに肉眼では見えないが、双眼鏡や望遠鏡を使えばバッチリ見える。この夜は、天王星が人類史上最も注目されたといえよう。
(※)星などの天体の明るさを示す数値「等級」は、肉眼で(最良の条件下の)星空を見たときに最も明るい星たちを1等星(1等級の星)、次の明るい星たちを2等星、最も暗い星たちを6等星ということが基準となっている。数字が小さいほど明るい(1等級より明るい天体は、0等級、さらに明るい場合は-(マイナス符号)を付ける。1等級と2等級の明るさの違いは約2.5倍)。オリオン座の三つ星はそれぞれ約2等級(2等星)、満月は約-13等級、半月は約-10等級だ。
望遠鏡で撮影したタイムラプス動画を見ていただきたい。天王星が月の縁に潜入し始める「天王星食の開始(第1接食)」から完全に隠される(第2接食)までジワジワと月縁に潜入していく様子がわかると思う。実際の観察でも15秒程度かかった。
これは、地球から見た天王星の視直径(見かけの大きさ)が角度にして3.7秒角あるためだ。望遠鏡でかなりの高倍率をかければ、わずかながら面積のある「○」(円盤状)に見える。
ちなみにこの日、同じ空に-2.8等級で輝いていた木星の視直径は46.6秒角。仮に木星食が起きれば、数分間かけて隠れていく計算だ。普通の星、つまり恒星が月に隠される恒星食(割と頻繁に起こる現象)は、瞬きする間もなく一瞬でパッと隠れてしまう。恒星は地球との距離があまりにも離れすぎていて(地球に最も近い恒星でも光の速度で4.3年=4.3光年。地球から天王星までは光速で2時間半)、望遠鏡でどれほど高倍率をかけても点像「・」にしか見えないためだ。
厳密に言えば、千葉より東側の地域では、皆既食終了(20時42分)直後に天王星が隠されたので、「皆既月食中の天王星食」ではない。今回の撮影地である九十九里浜・白里海水浴場では、天王星食(潜入)が始まったのが20時42分20秒ころである。いずれにしても一生に一度の激レア現象。
気になる次の「月食」は……?
国立天文台によると、前回442年前の日本で見られた皆既月食中の惑星食は、1580年7月26日の土星食で、次回は2344年7月26日の同じく土星食。“部分月食中の惑星食”と条件を変えても322年後まで見られない…。日本全国で見られる次回の皆既月食は、約3年後の2025 年 9 月 8 日。うーん、待ち遠しい!!
文・写真