『子供の科学2024年9月号』には、鳥羽水族館のアイドルとして大活躍中のラッコ、メイとキラが登場! 飼育係の南理沙さんが、2頭に今会いに行くべき理由を教えてくれたよ。今回は、本誌に載せきれなかったエピソードや、写真の数々をたくさん紹介! ラッコが置かれている環境や、かわいくて賢い生態について、さらに詳しくなろう。
取材・文/上垣内舜介 写真/衣笠名津美
■メイちゃんキラちゃんはどうしてこんなに人気なの?
——メイちゃんとキラちゃんをいつも近くで見守っている南さんが、2頭の人気を実感する場面はありますか?
メイちゃんとキラちゃんには毎日3回のお食事タイムがあるのですが、最近はその度に多くのお客さまで満員になります。数年前から比較すると明らかに人気が高まっていることを実感しますね。
——今年から、YouTube上で2頭の様子を24時間配信するライブカメラもスタートしましたね。
今年の4月、鳥羽水族館のYouTubeチャンネルで『ラッコ水槽ライブカメラ』の配信を始めました。現在は常時1000人近い視聴者の方がいて、本当にたくさんの反響をもらっています。鳥羽水族館に来るのが難しい事情を抱えている人にも、これをきっかけにしてラッコの知識を深めていただけたらと考えています。
——メイちゃんとキラちゃんはなぜここまで人気になったのでしょうか?
やはり最大の理由は、2頭のしぐさや動きがかわいいことだと思います。水族館の常連さんがその様子を撮影し、SNSで拡散してくれたことによって人気に火がつきました。お子さまだけではなく、大人のファンも非常に多くて、“推し”だと言ってくれる方もたくさんいます。
また、ラッコは日本の水族館にわずか3頭しかいない貴重な動物です。新たに捕獲・輸入することも難しいので、将来的には水族館で見られなくなるかもしれません。
北海道など一部の地域では野生のラッコが徐々に数を増やしつつありますが、すぐ近くで観察できる機会は現在の水族館にしか残されていません。特に、国内で2頭が一緒に過ごす様子を見られるのは鳥羽水族館だけだということもあって、その共同生活に多くの人が惹きつけられているのだと思います。
■2頭はいつも一緒! 性格が対照的なメイちゃんキラちゃん
——メイちゃんとキラちゃんの共同生活はどのようにスタートしたのでしょう?
メイちゃんは2004年に鳥羽水族館で生まれたラッコです。一方のキラちゃんは、和歌山県のアドベンチャーワールド出身。以前はそれぞれが単独で飼育されていましたが、野生では複数等でラフトという群れを形成し暮らすラッコの生態を考慮し、動物福祉の観点から2021年にキラちゃんが引っ越してきたことで2頭の同居がスタートしました。
メイちゃんは寂しがり屋で、1頭で暮らしていたときはおどおどしていることが多かったんです。キラちゃんがきてからは常にくっついて動き回ることが増え、いきいきとしているように感じます。
——キラちゃんとメイちゃん、それぞれの性格を教えてください。
性格は対照的だと思います。メイちゃんはとても頭がよく何事も器用にこなすタイプですが、臆病で神経質な一面もあります。対するキラちゃんはマイペースなのんびり屋さん。一度にたくさんのおもちゃを抱えて困ってしまったりと、ちょっと不器用で一生懸命なところが魅力です。
——2頭の様子を観察していると、プールに浮きながら眠るキラちゃんに対し、メイちゃんは陸に足だけ出したまま寝ていました。あれも性格の違いが理由なのでしょうか?
お客さまからもよく質問をいただくのですが、あればっかりは本当に理由がわからないんです(笑)。わざわざつらいポーズで寝るはずもないので、メイちゃん的には楽で気持ちのいい睡眠方法なのだと納得しています。
——南さんから見た2頭の関係性は?
出会った当初はたまにケンカしていたものの、今ではほどよい距離感を保ちつつ刺激を与え合う存在になっていると感じます。険悪になるのはメイちゃんがキラちゃんの食事を横取りしたときくらいですね(笑)。私たちも対策していますが、最近はキラちゃんの防衛スキルも上がっていて、食事を一旦すべて口に詰め込むようになりました。
プールを移動したキラちゃんをメイちゃんが慌てて追いかけていく場面をよく見るので、メイちゃんはキラちゃんが好きなんだと思います。キラちゃんのほうはあまり「メイちゃん、メイちゃん」という感じではないんですが……(笑)。でも、お互いにグルーミング(毛づくろい)するなど、非常にいい関係を築いています。
実は一度だけ、手をつないで寝ているところも見たことがあるんですよ。ライブカメラを熱心に観ているファンの方であれば、そのレアな場面をもっと見ているかもしれませんね。
■かわいさだけじゃない! お食事&トレーニングの大切な役割
——南さんは飼育員として、メイちゃんとキラちゃんのどんな姿をお客さんに見せたいと考えていますか?
ラッコはとても頭のいい動物なので、その賢さと能力の高さを伝えたいと思っています。飼育員と2頭の掛け合いを見たお客さまから「こんなにコミュニケーションができる生きものなんですね」といっていただけたときはうれしかったですね。
もちろん、ラッコのかわいい姿もたっぷり見ていただきたいと考えています。私はラッコの飼育を担当して7年目になりますが、それでも毎日のように「かわいい」と感じられるくらい魅力が溢れています。
——お食事タイムやトレーニングの様子を公開しているのも、ラッコの賢さを多くの人に知ってもらうためですか?
そうですね。ただ、単なるショーの時間というよりは、ラッコたちの日々の健康を守るための大事なルーティンなんです。私たち飼育員は、手のひらに傷がないか、口やお腹に異変がないかなど、食事やトレーニングの時間を通じて2頭の健康をチェックしています。
高くジャンプさせるのも、足の筋肉がきちんと使えているかを確認するためです。その様子すらも可愛く、ラッコの能力を知ってもらうきっかけにもなるので、時間を決めて公開するようになりました。
——トレーニングの様子を見るまで、ラッコが2足歩行できることも知りませんでした。
2足歩行は飼育員が覚えさせたのではなく、メイちゃんが自発的に始めた行動です。鳥羽水族館のラッコの水槽の中には大きな流木があり、そこに貝殻やおやつを隠しておいて2頭に探させることがあるんです。おやつを少し高い位置に隠した際、メイちゃんがそれを取ろうとして立ち上がることを発見しました。ドアを開けたり閉めたりするのも、ラッコたち自身が考えてできるようになった動きです。
また、形状や感触の異なるおもちゃを与えることによって行動の選択肢を増やし、ラッコたちが自分で考えながら新しい動きを身につけられるようにしています。野生のラッコは身の回りにある石や貝殻を手に持って工夫を凝らすことで、生活に役立てています。水族館ではそうした機会が減ってしまうので、少しでも野生の生態に近づけるために、考えるきっかけを与えているんです。
——南さんがお気に入りの動きやポーズはありますか?
本当に全部がかわいいので難しいですね……。でも、“王道”のほっぺたに手を当てるポーズは大好きです。メイちゃんはいつも完璧なんですが、キラちゃんは手の位置がずれることもあって、その対照的な個性が愛らしいですね。
——メイちゃんとキラちゃんが新しくできるようになったことはありますか?
メイちゃんはすでに何でもできちゃうので、新しいことは特にないかもしれないです……。それに対して不器用なキラちゃんは日々成長していますね。例えば、メイちゃんが得意な旗を持つパフォーマンス。これはキラちゃんにもできるかもしれないと思って新しい旗を持たせてみたのですが、最初は落としてしまって上手に持てなかったんです。しかし、誕生日のお披露目に向けて練習を重ねた結果、メイちゃんと同じようにきれいに持てるようになりました。
また、キラちゃんのグルーミングが上達しているように感じます。以前はお腹や背中のグルーミングが雑で、べちゃっと濡れている箇所が残っていたのですが、最近は全身が綺麗にお手入れできている日もあって。ラッコも人間と同じで、年を重ねると代謝が落ちてくるんですよね。代謝が落ちてきたときに濡れている部分があると体温のロスに繋がるので、丁寧にグルーミングをするようになったのだと思います。
——最後に、今後の注目ポイントを教えてください!
引き続き、キラちゃんの成長が大きな注目ポイントになると思います。キラちゃんはジャンプの高さでもメイちゃんに敵いません。というのも、賢いメイちゃんは高くジャンプするために助走が必要なことを理解しているのですが、キラちゃんはまだその考えにたどり着いていないんです。
しかし、最近は日々のトレーニングの成果が着実に表れています。これからの頑張りに期待していただけたらうれしいです!
★水族館インフォメーション
鳥羽水族館
所在地●三重県鳥羽市鳥羽3-3-6
営業時間●9時30分~17時(時期により変動あり)
休館日●年中無休
TEL●0599-25-2555(代表)
入場料●大人2800円、小中学生1600円、幼児(3才以上)800円 URL●https://aquarium.co.jp/