現在の発電技術は様々な問題を抱えています。例えば、火力発電は化石燃料を燃やすことで出る二酸化炭素により地球温暖化を深刻化させてしまいます。原子力発電は発電時に二酸化炭素を排出しないものの、事故が起きると周辺地域を放射性物質で汚染してしまいますし、長期間、放射線を放ち続ける高レベル放射性廃棄物を出してしまいます。太陽光や風力といった自然エネルギーで全電力をまかなえればいいのですが、自然任せのために安定して発電するのが難しいのです。
こうした発電技術の課題を改善してくれると期待されているのが核融合発電です。核融合発電も、原子力発電と同じく原子の力を利用しますが、原子力発電がウランのような重い元素の原子核の分裂を起こし、その際に生じる熱で発電を行うのに対して、核融合発電では水素の仲間の重水素、三重水素をくっつける(融合させる)ことによってヘリウムができる際に生じる熱で発電します。
重水素や、三重水素をつくるのに必要なリチウムは海水中に含まれていて、海水から取り出す技術が開発されているため、燃料が枯渇する心配はありません。原子力発電ではトラブルで反応を制御できなくなると、核分裂が暴走して大事故になりかねないのに対して、核融合発電では燃料を供給し続けなければ反応は止まるため、トラブルが発生しても核融合反応が暴走することはありません。高レベル放射性廃棄物が発生しないので、核融合発電は比較的安全な発電技術だと言えるでしょう。
しかし、核融合を起こすには1億℃以上の超高温が必要です。これだけの高温になると反応炉はすぐに溶けてしまうため、磁力で重水素、三重水素を浮かせて核融合を起こさせる方法などが研究されています。現在、建設中の国際熱核融合実験炉(ITER)が2025年に運用が始まる予定で、この実験炉での研究が順調に進めば、核融合発電は2050年代に実用化できると期待されています。(文/斉藤勝司)
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