【ミライ大図解】飢える人を減らせ‼ ゲノム編集で食糧増産に挑む【子供の科学10月号】

 日本では人口の減少が心配される一方、世界に目を向けると人口は増え続けており、飢える人の数はますます増えると言われています。国連食糧農業機関(FAO)によると、世界の飢える人の数は2019年時点に約6億9000万人だったのが、2030年に約8億4000万人に増えると予測されているのです。

(出典:国際連合食糧農業機関)

 当然、食糧増産に取り組まなければならないのですが、これが決して簡単ではありません。例えば、農地を広げれば収穫量を増やせるでしょうが、地球温暖化の問題がある以上、大気中の二酸化炭素をため込んだ樹木を切り倒して、農地を増やすことはできません。同じ面積でより多く収穫できる品種があればいいのですが、昔ながらの方法では時間がかかる上、目指す新品種を得られる保証はありません。そこで注目を集めているのがゲノム編集です。

 ゲノム編集は狙った遺伝子を壊して働けなくする技術で、代表的なゲノム編集技術の「クリスパー・キャス9」は、DNAを切断する働きを持つ酵素をガイドRNAが狙った場所に運んで、その遺伝子を破壊します(下図)。植物なら果実や種子が増えるのを、家畜や魚介類なら肉が増えるのを抑える遺伝子を壊すことによって食糧の増産が期待できるのです。

イラスト/新保基恵

 すでにゲノム編集によるマダイ、トラフグの改良が行われていて、マダイは筋肉が大きくなるのを抑える遺伝子を働かないようにして、筋肉が約1.2~1.6倍に増えました(写真)。トラフグの食欲を調節する遺伝子を働かなくしたところ、成長速度が約1.9倍になりました。

ゲノム編集で品種改良した肉厚マダイ(左)と、通常のマダイ(右)。(画像提供:近畿大学・京都大学)

 ゲノム編集を施されたマダイ、トラフグはすでに実用化されています。同じように収穫量を抑えるように働く遺伝子が見つかってくれば、これを壊すことで食糧増産に役立てられるでしょう。収穫量が増えるイネの開発も進められていますから、順次、実用化されていけば飢える人を少しでも減らすのに貢献できると期待されています。(文/斉藤勝司)

子供の科学2023年10月号

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斉藤勝司 著者の記事一覧

サイエンスライター。1968年、大阪府生まれ。東京水産大学(現東京海洋大学)卒業後、ライターとなり、最新の研究成果を取材し、科学雑誌を中心に記事を発表している。著書に『がん治療の正しい知識』、『寄生虫の奇妙な世界』、『イヌとネコの体の不思議』、『群れるいきもの』などがある。

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